富士山世界遺産 美を後世に引き継ごう


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 富士山の世界文化遺産登録が決まった。山梨・静岡両県の熱意と、長年の地道な努力がなければ登録に至らなかったはずだ。原動力となった両県の努力をたたえ、祝福したい。

 世界が価値を認めたとはいえ、課題は数多くあり、丁寧に解決を図りたい。世界遺産は一時的な経済効果のためのブランドではない。人類の貴重な遺産を守るという本来の趣旨に立ち返り、富士山の美しさをきちんと後世に引き継ぎたい。
 登録への道のりは平坦(たん)ではなかった。地元関係者は1990年代初めから自然遺産登録を目指し取り組んでいたが、政府の有識者委員会が2003年に行った国内選考では選から漏れた。ごみやし尿処理といった環境保全の取り組みの遅れが理由だった。
 だが山梨、静岡両県は諦めなかった。地元では自治体や民間団体が周辺の清掃活動を進めた。民間非営利団体(NPO)富士山クラブの04年からの統計だけで、回収したごみの総量は540トンに達する。今回、登録を決めた国連教育科学文化機関(ユネスコ)もこうした取り組みを高く評価した。
 富士山と信仰、芸術との結び付きに着目し、世界文化遺産を目指す方針に切り替えたのも奏功した。富士山は葛飾北斎や歌川広重の絵で世界に知られ、今回の受賞理由でも「浮世絵は西洋芸術に大きな影響を与えた」とわざわざ言及しているほどだ。「ソフトパワー」の価値を再認識させてくれた。
 とはいえ課題は残る。夏場は約30万人が登山し、日によっては登山道で渋滞が起きるほどだ。山小屋に泊まらず徹夜で上る弾丸登山も多く、危険が指摘される。万一のことがあれば世界遺産管理の在り方が問われかねない。地元は7合目以上で監視する誘導員を従来の倍にする方針だが、妥当だろう。
 さらに今年から試験的に入山料を徴収するが、こちらも評価したい。環境に負荷を与えすぎる「オーバーユース」が指摘されるだけに、登山者数を制限すると同時に、入山料を財源として自然保護、緊急時の保護・医療体制を整えるのは合理的だ。
 観光開発による景観破壊も指摘されてきた。景観保護のための規制が少なすぎるのは日本全体の課題だ。開発の総量抑制にとどまらず、湖のバイクの規制や景観を阻害する電柱の撤去など、ユネスコ諮問機関の勧告を重視すべきだ。