iPS臨床研究 課題克服し成果に期待


この記事を書いた人 Avatar photo 琉球新報社

 人工多能性幹細胞(iPS細胞)を使った世界初の臨床研究が承認された。失った体の機能を取り戻す、再生医療の治療法が、実用化へ向け重要な一歩を踏み出した。

 iPS細胞は山中伸弥京都大教授が開発した。心臓や神経など、さまざまな細胞や組織になる能力がある。患者自身の細胞から作製でき、本人に移植しても拒絶反応はほとんど起きない。
 iPS細胞を使った初の臨床研究の対象は、「加齢黄斑変性」という目の「難病」だ。目の網膜が老化し、急速に視力が失われる。
 今回の研究は、患者の皮膚細胞から作ったiPS細胞を、網膜細胞に成長させて移植する。腫瘍を作らず定着するかなどを確認する。目的はあくまでも安全性の確認なので、過度の期待は禁物だ。視力回復の効果を本格的に確認するのは次の段階になる。
 目の病気のほかにもパーキンソン病、筋ジストロフィー、心筋梗塞、脊髄損傷、糖尿病、腎不全などで、臨床研究を目指す研究が進んでいる。創薬へ応用する研究もある。後に続く研究に生かせるように、課題を一つ一つ克服して、情報公開しながら進めてほしい。
 安倍政権は先端医療を成長戦略の柱に位置付け、再生医療に期待している。iPS細胞研究に今後10年間で1100億円を助成する。医療分野が経済成長に結び付くかどうか議論の分かれるところだが、研究費助成から実用化まで一貫した支援は欠かせない。
 再生医療は、欧米の研究機関や企業が治療への応用を計画している。日本は研究予算が少なく、基礎研究で成果を上げても、臨床応用に時間がかかり、欧米に先を越されがちだからだ。
 今のところiPS細胞を治療で使うための基準、ルールがない。今回の臨床研究が、世界の基準作りにも貢献することを期待したい。
 再生医療は、これまでの医療の姿を根本から変えてしまうだけに、社会が受け入れ可能かどうかをしっかり議論する必要がある。
 例えば先日、生命倫理専門調査会が、iPS細胞を利用してブタの体内で人の臓器が作れるのかを確かめる研究を、大筋で容認した。研究者の間で賛否が分かれているのに、国民の理解は得られるのか。前のめりになることなく、課題に正面から向き合い、国民合意の上で進めるべきだろう。