与那国町有地仮契約 多角的に島の将来議論を


この記事を書いた人 Avatar photo 琉球新報社

 与那国島への陸上自衛隊沿岸監視部隊などの配備計画で与那国町と防衛省は、町有地約21・4ヘクタールを年間約1500万円で賃貸借することを定めた仮契約を締結した。

 仮契約締結を受け、防衛省は町有地を使用する農業生産法人南牧場と補償交渉を進める。同法人の同意が得られれば本契約の「土地等賃貸借契約書」を交わすという段取りだが、こうした前のめりの作業が町政の判断を縛り、与那国島の民主主義や自治権をゆがめないか危惧する。8月に実施される町長選で再び陸自配備が重要な争点となろう。国は選挙が終わるまで行動を自制すべきだ。
 町当局にも慎重対応を求めたい。町は自衛隊配備に伴う振興策を要求し、防衛省からごみ処理場建設や伝統工芸館の建て替え、配水施設、漁業用の超低温冷蔵庫・加工施設など多くの施設整備の提案を引き出したようだが、こうした施設整備は本来、内閣府の沖縄振興策として粛々と行うのが筋だ。
 与那国島では近年、島の活性化策や将来像をめぐって、自衛隊誘致による地域経済への波及効果を期待する人々と、「国境の島」として周辺国・地域との平和的交流などで島の発展を模索する人々の間であつれきが生じている。
 陸自配備をめぐる地域の分断をどう回避するか。地域振興の所管ではない防衛省に依存し、持続可能な島の発展と住民の幸福を託すことはできまい。自衛隊を誘致し発展した過疎地の例など聞いたことがないからだ。陸海空自衛隊がある長崎県の対馬では、1960年に約7万人だった人口が2005年には3万8千人に半減した。
 与那国島の事情に詳しい佐道明広中京大教授はかねて、八重山地域と台湾との交流拡大が台湾と日本との関係強化につながり、シーレーン確保など安全保障面でも貢献すると指摘。国境警備・災害支援、国民保護の観点から海上保安庁の増強も提起する。多面的な安全保障の組み立て方は参考になる。
 与那国の活性化も島の地域的・文化的特性の有効活用、東アジアの持続的な共存共栄を大前提に多面的な議論をすべきではないか。
 次世代にどのような与那国島を引き継ぐか。島の将来は、住民の自己決定権を尊重し議論すべきだ。国など第三者がお金の力に物を言わせて住民の権利や地方自治を弄(もてあそ)ぶことは厳に慎むべきだ。