TPP交渉 主権侵害の本質論議急げ


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 政府は、7月下旬から交渉に参加する環太平洋連携協定(TPP)の会合で、コメ、麦、牛・豚肉、乳製品、サトウキビなど甘味資源作物の農業の重要5品目について、関税撤廃の対象から除外するよう求める方針を固めた。

 振り返ってみれば、安倍晋三首相はことし3月、「聖域なき関税撤廃が前提ではないことが明確になった」として交渉参加を表明したはずだ。
 7月の参院選に向けた自民党の総合政策集は、重要5品目や国民皆保険制度など「聖域(死活的利益)」が守れない場合は「脱退も辞さない」と明記している。これまでの経緯からしても、重要5品目の除外を求める政府方針は至極当然であり、驚くに値しない。
 ただ、気に掛かるのは、安倍首相は国会答弁で、政策集は公約ではない-との認識を示している点だ。自民党の参院選公約はTPPについて「守るべきものは守り、国益にかなう最善の道を追求する」とあるだけだ。
 しかしながら、政策集を普通に読めば、政権公約を詳細に記述したものと国民の大多数は受け取るだろう。首相答弁は欺瞞(ぎまん)に満ちており政治不信につながる。今回のTPPに関する政府方針や政策集を、参院選対策のリップサービスにしてはならないと心すべきだ。
 そもそも安倍首相は国民に対して、TPPに関する情報の開示も説明責任も十分に果たさないまま、交渉参加を独断的に表明したことを忘れてはならない。
 TPPは、農産物などの関税撤廃に焦点があたりがちだが、医療や雇用、食の安心安全の基準、投資や金融サービスなど21分野にわたり、それこそ影響は国民生活の多岐に及ぶ。決して農業問題に矮小(わいしょう)化されるべきものではない。
 よくよく注意しなければならないのは、各分野とも、国家・国民主権に密接に関わる問題をはらんでいることだ。
 例えば、投資家・国家訴訟(ISD)条項は、企業が進出先の政府を提訴できる制度だが、既に条項を導入した国家間では、国の法律や地方自治体の条例よりも企業活動が優先される事態も生じている。
 国家・国民主権が侵害される懸念という点では、不平等条約である日米地位協定を想起させる。政府はTPPに関する全ての情報を速やかに国民に開示し、その本質に関わる議論を急ぐべきだ。