南シナ海「規範」 紛争回避に英知を絞れ


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 緊張が続いている南シナ海の領有権問題を抱える関係国が、紛争を回避するため、法的拘束力を伴う「行動規範」の策定に向けて本格的に動きだす。

 東南アジア諸国連合(ASEAN)と中国が、「行動規範」の策定を目指し、初の公式協議を9月に開くことで一致した。
 南シナ海をめぐる多国間協議に消極的だった中国が協議入りに踏み込んだ意義は大きい。武力衝突という最悪事態を避けるため、拘束力がある規範策定に乗り出すことは大きな前進であり、評価したい。
 うまくいけば、日中がせめぎ合う尖閣諸島の領有権問題を解決するモデルになる可能性がある。
 規範策定の協議に入れば、各国が軍事的挑発などを自制する効果も期待できよう。とりわけ、中国には他国を刺激する無用な行動を慎むきっかけにしてもらいたい。
 ASEANが実践してきた「紛争回避外交」の畜積を生かす千載一遇の好機と位置付け、関係国は、実効性の高い規範づくりに英知を絞り、緊張緩和の流れを確固たるものにすべきだ。
 海洋権益の拡大を図る動きを強める中国と関係国との関係はとげとげしさを増すばかりだった。
 南沙諸島をめぐっては6カ国が領有権を主張し、西沙諸島でも中国とベトナムなどの争いが続いている。
 南シナ海の平和、安定を目指すため、ASEANと中国は2002年、「行動宣言」に署名していた。領土問題の平和的解決、緊張を高める行動の自制などを盛り込んだものの、拘束力がないために有名無実化していた。
 喫緊の課題だった行動規範への格上げを求めて、ASEANが足並みをそろえ、強硬姿勢一辺倒だった中国の重い腰を上げさせた。
 1980年から90年代にかけて、南シナ海では死傷者が出る衝突がたびたび起きた。中国、台湾、ベトナム、フィリピンなど6カ国が領有権を主張する南沙諸島はそれぞれが入り乱れて実効支配を続け、「海の火薬庫」とも称されてきた。
 日本と中国、ASEANは、経済面での結び付きを深めている。日本は協議の行方を傍観するのではなく、当事者意識を持って各国の紛争回避努力を積極的に支持すべきだ。そして、国内の排外的なナショナリズムの高まりを抑えるよう努めねばならない。