参院選・経済・財政(中) TPPは徹底的に議論を


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 政府は先月閣議決定した2012年度の農業白書で、国内の潜在的な食料供給能力を示す「食料自給力」の観点を4年ぶりに復活させた。前回の自公政権時の08年度版でも提唱していたもので、農地や担い手、農業技術などを合わせた食料供給力のことを指している。

 環太平洋連携協定(TPP)の交渉参加をにらんだ農業強化策がその背景にあるが、この際TPPについても再度徹底的に議論してもらいたい。参院選はその絶好の機会だろう。
 TPPに反対する大学教員らが、農産物の関税を撤廃した際の農業生産額減少は全国で年間2兆5千億円に達するとの試算を発表し、「地域経済に深刻な影響が出かねない」と指摘した。影響が最大の北海道で4642億円、沖縄も288億円の減少が見込まれる。
 この金額はこれまでの各種試算よりもむしろ小さい。対象品目などの条件が異なるためで、政府の3月の公表では減少額は国内生産の4割を超える3兆円に及ぶ。一方、県の試算では沖縄の生産減少額は全体の5割を超える580億円。農業の壊滅的打撃を避けられない水準であり、特にサトウキビなどへの依存度が高い離島地域への影響が強く懸念されている。
 国民、県民の食と暮らしを支える産業をこれほど犠牲にしても、自動車など工業製品の輸出拡大でマイナス分を補って余りあるメリットが国民生活に保証されているのだろうか。むろん政府はコメ、麦、牛・豚肉、乳製品、サトウキビなど甘味資源作物の農業重要5品目は、関税撤廃の対象から除外するよう求めるという。ただ交渉参加国にはTPPを主導する米国のほかにもオーストラリアなどの農業輸出国がある。市場開放を日本に強く迫ることは容易に想像できる。
 交渉参加に関して安倍晋三首相は「国益をしっかり守る」と表明し、全力で交渉に臨む姿勢を強調している。一方の野党からは、自動車をめぐる米国との事前協議などこれまでの政府交渉への批判や、参加そのものに強く反対する意見もある。
 「国益」の確保が参院選の論点になっているが、国民の不安が解消されないのは、情報の乏しさも大きな要因だ。TPPの対象は農業に限らず、医療や雇用、食の安全、投資・金融サービスなど生活のあらゆる分野に及ぶ。政府にはTPPに関する全ての情報の速やかな開示を、重ねて求めたい。