原発再稼働申請 道義的責任を感じているか


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 原発新規制基準が8日施行されたことを受け、北海道、関西、四国、九州の4電力会社が原子力規制委員会に対し5原発10基の再稼働に向けた安全審査を申請した。原発停止に伴う火力発電の燃料費増加が経営を圧迫し申請を急いだようだが、こうした対応は疑問だ。

 東京電力福島第1原発の事故現場や周辺では、事故収束や廃炉への道筋、放射能除染など作業終了の見通しが立たない。原発震災でいまだ15万人もの住民が避難生活を余儀なくされ、苦しんでいる。
 こうした中、国民の安全より企業経営を優先させるかのような電力業界の行動は、倫理上問題ではないか。「原子力安全神話」で事故を助長した電力会社・業界は、道義的責任を感じているのか。
 新規制基準は、福島の事故を教訓に炉心溶融や放射性物質の大量放出といった過酷事故への対策や、地震、津波対策を強化した。再稼働は、各社の安全対策が新基準に適合していることを安全審査で確認することが条件となる。
 新基準は、事故で原子炉格納容器の圧力が高まった際、放射性物質を減らした上で容器内の蒸気を外部へ放出する「フィルター付きベント設備」の設置などを求めている。地震対策では「地盤をずらす可能性がある断層(活断層)」の真上に原子炉建屋などの重要施設の設置を認めず、津波対策は防潮堤設置などを求めた。
 こうした措置を講じても、原発の安全は誰も保障できまい。人類は原発過酷事故が起これば技術的に制御不能であることを知った。第1原発の被害拡大も津波の前の、地震による損傷が原因ではないかとの疑いがいまだ晴れていない。
 原発立地地域では再稼働による経済効果へ期待もあるが、「人々の命や生活を軽視している」と電力会社への不満も根強い。規制委には厳格な審査を求めたい。
 識者の中には、より包括的な改革を求める声もある。例えば、将来の事故に備え最大680兆円もの損害賠償の可能性があるとしたドイツの試算などを踏まえた、原子力損害賠償法の見直しなどだ。国民も、原発の命や安全、健康、環境、経済、国家財政に対するリスクを懸念する人が増えている。
 政府や電力業界は国民の声に真摯(しんし)に耳を傾け、脱原発や再生可能エネルギーの推進など、大胆な電力改革にこそ注力すべきだ。