日銀景気回復宣言 賃金と雇用の改善も不可欠


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 日銀が景気の現状判断を「緩やかに回復しつつある」と引き上げた。判断に「回復」の表現が復活するのは東日本大震災直前の2011年1月以来、2年半ぶりだ。参院選さなかでの景気回復宣言は経済政策「アベノミクス」を推進する安倍晋三政権の追い風となろう。

 しかし、賃上げへの企業の動きは鈍く、庶民の実感とは隔たりが大きい。日銀は政権の圧力に押され、大規模な金融緩和に踏み切ったが、今回もまた政権への追随が見え隠れする。日銀の独立性は保たれているのか危惧する。
 厚生労働省が今月2日に発表した5月の毎月勤労統計調査では、所定内給与は前年同月比0・2%減と12カ月連続で減少し、マイナス圏に沈んだままだ。黒田東彦総裁は会見で「所定内賃金はまだ上昇していない。もう少し見ていく必要がある」と述べ、所得増は実現できていないことを認めた。本来、働いている人たちの賃金が増え、消費が拡大して初めて景気回復と言えるだろう。経済の好循環が軌道に乗る前の、日銀の前のめりの対応は疑問が残る。
 日銀の6月の企業短期経済観測調査(短観)は、円安の追い風を受けた自動車など輸出産業がけん引役となり、景況感がプラスに転じた。しかし、円安による原材料高が重荷となっているエネルギー業界や中小企業との二極化は解消できていない。
 県中小企業団体中央会が実施した会員企業への円安影響調査(6月分)でも、全22業種のうち半数の11業種が「悪化」と回答した。大企業だけが潤い、中小企業が疲弊したままでは「景気回復」と喜べるはずがない。
 円安の影響で食料品の値上げなど家計に響く副作用も目立ってきた。庶民の暮らしは今のところ、厳しさを増すばかりだ。
 安倍政権は消費税率を2014年4月に現在の5%から8%に引き上げる方針だ。物価値上げに加え、消費税の引き上げが重なれば、家計への打撃は深刻だ。12年度の国の税収は43兆9314億円で、11年度より1兆988億円増えている。税収が回復傾向にある一方で、所得や雇用の状況が改善しないのなら、消費増税は見送るのが筋だ。
 政府は賃金の増加と雇用確保に最優先で取り組み、国民が景気の回復を真に実感できる政策を進める必要がある。