武器禁輸撤廃 「死の商人」に道開くのか


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 日本が国際紛争に加担して事実上戦争に参加し、「死の商人」と化す道を開きかねない。

 安倍政権が武器輸出三原則の撤廃に向け、8月中にも本格的に議論を加速させる。三原則の是非を論議するのではなく、撤廃に向けた政府内論議の集約に照準を合わせている。重大な事態だ。
 武器輸出三原則撤廃は国の形を変える。強い反対を表明したい。
 憲法の平和主義と合わせ、第2次世界大戦後の日本の基盤を成していた国是の改悪である。大戦後、いかなる戦争にも加わらなかった日本の国際的信頼にも深い傷をつけかねない。
 武器輸出三原則の出発点は1967年、佐藤栄作首相(当時)が(1)共産圏諸国(2)国連決議による武器禁輸国(3)紛争当事国-への輸出を認めないと表明したことだ。76年に三木内閣が他国にも輸出を慎むとする政府統一見解を出し、実質的な全面禁輸が維持されてきた。
 だが、特別扱いする米国への輸出が緩和され、民主党の野田政権は2011年、国際共同開発への参加や人道目的などでの装備品供与の解禁に踏み切った。
 さらに、安倍政権は3月、最新鋭ステルス戦闘機F35をめぐる日本企業の部品製造参入を優先して、例外扱いした。菅義偉官房長官の談話には、武器禁輸の支柱と言える「国際紛争助長を回避する」という文言が消えていた。
 今回の武器禁輸原則撤廃の動きは、これまでのなし崩し的な「緩和」をも大きく超え、平和国家の基本理念を踏みにじるものだ。
 安倍晋三首相自身、撤廃に前向きとされる。自民党が参院選で圧勝し、政策を数の力で押し通せる環境になった途端、右傾化を強める安倍カラーが前面に出てきた。
 武器禁輸の抜本的見直しには、国際開発競争に乗り遅れ、安全保障と密接に絡む経済的国益が損なわれるという政権の思惑がある。
 国是を放棄してまで、自国の産業競争力を強めることは本末転倒だ。日本の先進技術が重宝され、国際紛争を激化させる事態を招けば、「死の商人」のレッテルを張られることは目に見えている。
 集団的自衛権の行使容認を促す動きと合わせ、性急すぎる武器禁輸撤廃論が国民的論議もないまま、政治日程に上るのは危うい。戦争の恐怖、非人道性に対する為政者の想像力が著しく欠如しつつある。危険な兆候に敏感でありたい。