児童虐待最多 地域の絆が問われている


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 全国の児童相談所が2012年度に相談や通報を受け、対応した児童虐待の件数が6万6807件(速報値)に達し過去最多を更新した。集計開始以来22年連続の増加で6万件を超えたのは初めて。沖縄は前年度より51件減の363件で、一定の歯止めがかかった。

 厚生労働省は過去最多について、社会的な意識の高まりがあると分析する。病院や学校など最前線の現場で、閉ざされがちな家庭の内情に目を配る意識が働いているなら、その意味は小さくない。肝心なのは早期の相談や通報に適切に対処し、事態の深刻化をいかに防ぐかだが、虐待死に至る例も依然少なくない。
 子どもを守る受け皿となる児童福祉施設や里親の充実・強化を図ると同時に、親を孤立させない支援態勢の整備を急がねばならない。とりわけ、児童相談所をはじめ福祉の現場に携わる人員不足の解消は待ったなしだ。
 一方、昨年4月の改正民法で創設された親権停止制度に基づき、児童相談所長が親権停止を申し立てた事案は27件で、うち15件で家裁が親権停止を認めた。子どもの利益を最優先にする制度の意義を最大限に尊重し生かしてほしい。
 厚労省は、11年度に虐待で死亡した子どもに関する検証結果も公表したが、心中以外で亡くなった58人の大半が0~2歳で、0歳児が25人と4割を占めた。
 出産の疲れや育児ストレスが重なって発症する産後うつにかかる割合は、10~20%に上るという。周囲の無理解で孤立し、核家族で夫の支援がないとさらに深刻化し、育児放棄など虐待に発展するケースがある。現在、生後4カ月までの赤ちゃんがいる全ての家庭を保健師らが訪問する「こんにちは赤ちゃん事業」があるが、訪問すら拒み、誰にも悩みを打ち明けない家庭もあるという。行政任せでは決して解決しない虐待問題の根深さを示していると言えよう。
 一方、虐待死では、望まない出産や10代の妊娠も目立つ。養育意識が未熟なまま家庭を持ち、家族の結び付きが希薄で経済的にも不安定な環境が虐待につながりやすいとされる。
 こうしてみると、出産前、出産後を問わず、虐待の芽を事前に摘み取るには、いかに地域からの孤立化を防ぐかが鍵を握る。住民同士のネットワークや、福祉・医療・警察といった関係機関の連携など、地域の絆が問われている。