TPP交渉入り あまりに異質な協定だ


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 知れば知るほど交渉の在り方に疑問が湧く。日本が初参加したマレーシアでの環太平洋連携協定(TPP)交渉会合が終わった。

 協定の特徴は徹底した秘密主義にある。交渉入りするまでどんな分野が対象になるか分からず、各国が何を主張しているかも分からない。今後も、何が自由化されるのか、協定締結まで内容は国民に一切知らされない。あまりに異質な協定だ。
 国の根幹にかかわることを、政府にすべて白紙委任したつもりはない。主権者に何も知らさずに国の大原則が決まるのは封建的すぎる。民主主義的ではないこんな交渉からは今すぐ撤退すべきだ。
 マレーシアでの会合の最中、日本郵政が米保険大手との提携拡大にかじを切ったことが象徴的だ。郵政はがん保険の独自開発を掲げていたが、かんぽ生命の事業拡大に反対する米国の主張を丸のみさせられた形だ。政府の情報隠しの陰でTPPのために犠牲になるものがあることを暗示している。
 2010年に8カ国で交渉が始まったTPPはこれまで11カ国が参加しており、日本は12番目となった。その間、どんな交渉がなされてきたか分からない日本政府は「周回遅れ」に焦りを募らせているというが、焦りのあまり譲歩の連続になるのは目に見えている。
 次回はブルネイだが、日本がその次の開催地となることを持ちかけられるとの観測もある。すると、取りまとめのため議長国が一段の譲歩を迫られる可能性もあろう。
 自民党は農業の重要5品目の例外扱いが得られなければ撤退も辞さないと言うが、徹底した対米従属で思考停止しているこの国で、米国の意に反して脱退するなど、およそ期待できるはずがない。
 TPPが危険なのは農業分野だけではない。米国のバイオ化学メーカーが「非関税障壁を撤廃せよ」と主張すれば、遺伝子組み換え食品かどうかも表示できなくなるかもしれない。米国の製薬会社の知的所有権を強化するという触れ込みで、安価なジェネリック医薬品が使えなくなる可能性もある。米国の保険会社の利益のため、日本の健康保険制度が崩壊させられるかもしれない。
 私たちの生命に関することすら国民の意に反して決まる事態もあり得るのだ。主権喪失にも等しいそんな未来を選ぶのか。TPPの本質を見極めると同時に、国の在り方も問い直したい。