失業率改善 雇用の質こそが肝心だ


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 全国の6月の完全失業率(季節調整値)が3・9%となり、リーマン・ショック直後の2008年10月以来、4年8カ月ぶりに3%台に低下した。県内は4・9%(原数値)で、1995年6月以来、18年ぶりに4%台となった。

 失業率の改善は素直に歓迎したいが、手放しで喜ぶのは早計だ。非正規労働者の割合が高く、安定した待遇など「雇用の質」の改善には程遠く、雇用回復の実感が乏しいためだ。
 失業率改善の背景には、安倍政権の経済政策アベノミクスによる景気回復への期待感から、企業の採用意欲が高まっていることがあるとされる。ただ、雇用の量の拡大の内実はどうなのか、政府は詳細に検証してもらいたい。
 政府・日銀の大胆な金融緩和政策で円安と株高が進み、輸出関連など大企業を中心に業績は改善傾向にある。一方で下請けや地方企業、一般国民にまで恩恵は行き渡っていない。安倍政権は景気回復にとどまらず、所得増加に結び付く政策展開を急ぐべきだ。
 日本の労働環境は、非正規労働者の総数が初めて2千万人(2012年、推計)を超え、雇用者全体に占める割合は38・2%と過去最高を更新した。雇用が不安定で賃金の低い非正規雇用が労働者の4割弱を占める現実を忘れてはならない。夫婦ともに非正規という家庭も少なくなく、子どもの教育にもその影響は及ぶ。
 失業率改善は、パートなどの割合が高い医療・介護分野の仕事が増加傾向にあることも要因の一つだ。菅義偉官房長官は「(アベノミクスが)雇用にも波及し始めている」と述べたが、雇用の質にもしっかりと目を向けてほしい。
 一方、県内の失業率改善は、公共事業が増えている建設業のほか、観光客の増加で宿泊、飲食サービス業で求人が増えたことが大きな要因とみられる。いずれも非正規の割合が高く、市場動向に左右されやすい職場環境という点で共通する。特に建設業界の活況は、来年4月の消費税率引き上げを見据えた住宅建設の駆け込みなど、需要の先食いで一過性に終わる懸念も根強くある。
 県内の非正規雇用の割合は44・5%と全国一高い。雇用の質など労働環境の改善には、公共事業や観光頼みの産業構造の抜本的な転換が不可欠だ。失業率の増減に一喜一憂することなく、中長期的な視点で取り組みたい。