生活保護費減額 財政理由に安全網壊すな


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 生活保護費の基準額が国の予算で1・5%引き下げられ、1日から減額支給が始まった。2015年度までに予算を計670億円(6・5%)減らすことにしており、下げ幅は過去最大だ。増え続ける生活保護費を抑えることが目的だが、就労対策や生活困窮者支援が不十分なままでは、ただの弱者切り捨てとみられても仕方ない。

 生活保護を受けている人は約215万人、約158万世帯で、減額は受給世帯の96%に及ぶ。対象となるのは食糧や衣服費などに充てる「生活扶助」で、理由としてデフレによる物価下落をこれまで考慮してこなかったことや世帯、世代、地域による格差の拡大を挙げる。
 安倍政権の経済政策はデフレ脱却を目指し、物価上昇を目指している。これから物の値段が上がるかもしれないのに、過去の物価下落を理由に引き下げるのは明らかに矛盾している。さらに今回の減額で大きな影響を受けるのは都市部に住む子育て中など家族の多い世帯だ。就学や進学を諦める子どもが増えて、貧困の連鎖につながる事態は食い止めねばならない。
 政府は同時に不正受給対策を強化する生活保護法改正案を秋の臨時国会に再提出し、成立を目指す方針だ。不正は絶対に許してはいけない。ただ日本の不正受給率は金額で0・4%、人口に占める率で1・6%と他の先進国と比べても極めて低い。不正受給をことさら強調して、生活保護受給者全体への減額を容易にするような行政手法は作為的と言わざるを得ない。
 政府は1月に生活保護の支給水準を段階的に引き下げる方針を決めていた。8月の実施は参院選を考慮したといわれており、選挙に勝つために不都合な政策を先送りにしたのなら不誠実極まりない。
 菅義偉官房長官は減額支給の理由の一つに「他の一般低所得者との均衡」を挙げた。最低賃金で働いた場合の収入が生活保護の受給水準より低い逆転現象が起きていることを念頭に置いたものだ。本来ならば最低賃金を引き上げて労働環境を改善すべきであり、生活保護費の減額で整合性を取るのは筋違いだ。
 生活保護制度は憲法25条で保障された生存権を確保するものだ。財政圧迫を理由に最後の安全網である同制度の理念を揺るがすような事態を招いては本末転倒だ。生活困窮者支援や就労支援など多角的で丁寧な施策を進めるべきだ。