社会保障報告 熟議で国民の信頼回復を


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 政府の社会保障制度改革国民会議は2日、最終報告書の原案をまとめた。負担増や給付減など国民に痛みを強いる改革メニューが並んでおり、実現すれば、生活に打撃を受ける人も少なくない。

 7月の参院選で自民党は、負担増の議論を封印していただけに、唐突感とともに、国民をだます意図があったのではないかとの疑念も拭えない。
 報告書案は、介護の必要度が軽い「要支援」の人を介護保険サービスの対象から切り離し段階的に市町村事業へ移行させるほか、70~74歳の医療費窓口負担を2割に引き上げる方針などを盛り込んだ。介護保険は高所得者の自己負担を増やすなど、高齢者にも応分の負担を求めているのが特徴だ。
 大きな政策転換になるだけに、政府は国民への説明責任をきちんと果たし、疑問や不安に丁寧に答える必要がある。
 例えば、介護の軽度者切り離しは、「自治体間でサービスにばらつきが出る」との懸念の声など介護現場には不安が広がっている。サービスの低下が症状の悪化を招き、介護の必要な高齢者が増えるとの指摘もある。給付費を抑制するはずが、結果的に介護保険財源を圧迫することになれば、本末転倒だ。
 一方、高額医療での自己負担を低く抑える「高額療養費制度」を拡充。負担は高所得者で増えるが、低所得者は軽減する。介護保険料の軽減も低所得者で広げるとした。生活弱者への配慮は重要な観点と言えよう。
 国民会議は5日に報告書を正式決定し、6日に安倍晋三首相に提出する。政府は自民、公明両党の意見も聞き、21日に改革の実施時期を明示した「プログラム法案」要綱を決定する方向だ。さらに10月めどの秋の臨時国会で同法案を提出し、成立を目指すとする。
 ただ、社会保障制度は国の根幹に関わるだけに、スケジュールありきではいけない。ましてや改革案の具体的な制度設計はこれからであり、熟議に熟議を重ねてしかるべきだ。
 利害がからむ省庁や都道府県、市町村で対立が生じる可能性も否定できないが、何よりも国民の理解と合意なくして制度設計はないと肝に銘じてほしい。要は世代間の不均衡を是正し、将来への不安をいかに拭い去るかだ。社会保障制度への信頼を一日も早く取り戻さなければならない。