敵基地攻撃能力 専守防衛の破壊許されぬ


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 安倍政権が新防衛大綱の策定作業で検討中の敵基地攻撃能力の保持について、米政府が7月の日米外務・防衛審議官級協議で「近隣諸国にどんなメッセージを与えるか考えてほしい」と指摘し、中国や韓国への慎重な配慮を求めた。

 安倍晋三首相は、集団的自衛権の行使容認など安全保障政策を抜本的に見直しており、敵基地攻撃能力の保持にも前向きだ。だが日米同盟を重視する米当局者ですら安倍政権の突出を懸念している。国民は「専守防衛」の国是を破壊する攻撃能力の保有を、首相に白紙委任はしていない。憲法の平和主義に照らせば、敵基地攻撃能力の保有の構想こそ白紙に戻すべきだ。
 敵基地攻撃能力に関する政府見解は1956年に打ち出され、誘導弾攻撃など「急迫不正の侵害」で、他に防御手段がない場合には必要最小限度で「誘導弾等の基地をたたくことは法理的には自衛の範囲に含まれ可能」との立場。だが専守防衛の立場から攻撃的兵器の保有はしない方針を貫いてきた。
 戦争を放棄した平和憲法の下、戦後の日本が他国との外交紛争を武力に頼らず、外交努力で解決してきたことは誇るべきことだ。
 今、安倍首相の歴史観、外交姿勢に国際社会が懸念を強めている。今年、日本の過去の植民地支配と侵略を認めた村山元首相談話について「そのまま継承しているわけではない」とし、国会で「『侵略』という定義は国際的にも定まっていない」とも答弁した。だが、侵略は74年の国連総会決議で明確に定義されており、首相は米紙からも「恥ずべき発言」と批判された。
 尖閣諸島、竹島の領有権問題での中韓両国との対立、歴史問題をめぐり、国際社会では日本が「東アジアの不安定要因」との見方も広がっている。安倍首相の言動に関し、米議会調査局が「東アジアの国際関係を混乱させ、米国の国益を損なう可能性がある」との報告をまとめたのもその証左だ。
 アクセルを踏むばかりで、ブレーキの利かないこの国の安保政策は危うい。安倍首相は防衛大綱で既成事実を積み重ね、憲法改正を加速させる腹だろう。首相は現行憲法を否定し、どのような歴史観、世界観で国造りを進めるつもりなのか。アジア諸国との共生については、どのような将来展望を持っているのか。自らの言葉で国民にしっかり説明すべきだ。