福島原発汚染水 総力挙げて具体策急げ


この記事を書いた人 Avatar photo 琉球新報社

 原発事故はまだ収束していないことがはっきりした。

 政府は東京電力福島第1原発の敷地内から毎日300トンの汚染水が海に流失しているとの試算を初めて明らかにした。事故直後からずっと流出している可能性があり、事態は極めて深刻だ。
 問題が発生するたびに、もぐらたたきのように対症療法的な対応が繰り返された。もはや一刻の猶予も許されない。政府と東電は、国内外の英知を集めて具体的で実効性のある抜本的対策を打ち出すべきだ。
 汚染水問題は突然発生したのではない。京大原子炉実験所の小出裕章助教は事故発生直後から、原子炉建屋のコンクリートがひび割れ、高濃度汚染水が漏れて敷地内にたまっていると指摘し、地下ダムのような遮水壁を造ることを提唱していた。
 しかし政府と東電は、敷地内に大量にたまり続ける汚染水対策を怠り、2011年12年に当時の野田佳彦首相が原発の「事故収束」を宣言してしまった。無責任な政治によって多大な犠牲が強いられることになったのである。
 海に流出した放射性セシウム137は黒潮に乗って東へ拡散した後、北太平洋を時計回りに循環するという。福島第1原発の沖合には、セシウム137の濃度が周辺より2~10倍以上高い「ホットスポット」が存在する。
 広範囲にわたる魚介類への影響は深刻であり、操業再開を心待ちにしている漁業者と加工など水産業従事者に対する裏切りではないか。韓国では日本産の水産物の安全性に不安が高まり、全面的な輸入禁止を求めるデモが起きている。新たな風評被害が懸念される。
 今回の政府の試算は根拠が乏しく、流出している水の汚染の程度を示せないままだ。1日の流出量も単純計算にすぎない。事故から2年5カ月たっても、原子炉内がどうなっているのかなど全体像がつかめていない。
 日本も批准している国連海洋法条約により、海洋環境の保全の努力が義務付けられている。汚染水を流出させ続けることは、条約に反することになり国際問題になりかねない。
 茂木敏充経済産業相は「ほとんど対策が取られなかった」と民主党政権を批判するが、安倍政権でも対策が遅れている。原発再稼働の審査を中止し総力を挙げて汚染水問題に取り組むべきだ。