原爆投下68年 核兵器廃絶の先頭に立て


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 広島と長崎に原爆が投下されてから68年を迎えた。6日と9日のそれぞれの「原爆の日」に開かれた式典で、両市の市長は平和宣言で、核兵器廃絶と平和な世界の実現に向け力を尽くす決意を語った。安倍晋三首相もあいさつで「日本人は唯一の戦争被爆国民だ。われわれには確実に核兵器のない世界を実現していく責務がある」と述べた。しかし両市長と首相との間には核廃絶を希求する姿勢の真剣さで大きな開きがあると言わざるを得ない。

 今年4月、ジュネーブで開催された核拡散防止条約(NPT)再検討会議準備委員会でスイスなどが起草し、80カ国の賛意を得た「核兵器の非人道性に関する共同声明」に日本は賛同の署名を拒んだ。声明は核使用の非人道的側面を指摘した上で「いかなる状況下でも核が再び使用されないことが人類の生存に利益となる」と訴えている。当然の真理ともいえる声明だ。核兵器による唯一の被爆国として、なぜ賛同しないのか。
 政府の言い分はこうだ。声明の「いかなる状況下」との表現が、いざというときに米国の「核の脅し」を必要とする日本の安全保障政策と相いれない-。2月の北朝鮮の核実験後、日本政府は米国に「核の傘」の再確約を求めたようだ。核兵器を「必要悪」と是認する政府が、原爆で命を落とした21万余の犠牲者に顔向けできるのか。
 さらに政府は非核を求める姿勢とかけ離れた行動も取っている。安倍首相は今年5月、来日したインドのシン首相と会談し、日本のインドへの原発輸出を可能にする原子力協定締結へ向けた交渉の加速化で一致した。インドは過去にカナダ提供の原子炉を悪用して核実験を強行している。数年内には新型の大陸間弾道ミサイルなどを配備する予定だ。原発輸出は核兵器製造の手助けになりかねない。
 政府の核政策について、長崎の田上富久市長が平和宣言で「これは二度と、世界の誰にも被爆の経験をさせないという、被爆国としての原点に反します」と批判したのは当然だ。安倍首相の「核兵器のない世界を実現していく責務がある」とのあいさつが空虚に聞こえて仕方ない。
 2年後は被爆から70年という節目を迎える。日本は核兵器を「必要悪」として捉えるのではなく、「絶対悪」として捉え、世界の先頭に立って廃絶に向けた取り組みを進めるべきだ。