与那国町長選 複雑な島の民意受け止めよ


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 過疎に悩む国境の島の活性化に自衛隊誘致は必要か、それとも島の人々の手で自立を目指すのか-が主要争点になった与那国町長選は、自衛隊配備を推進する現職の外間守吉氏が3選を果たした。

 ゴミ焼却炉などのインフラ整備など、陸上自衛隊の沿岸監視部隊配備による経済効果を前面に掲げた外間氏が信任を得た。
 与那国の将来像をめぐり、悩み抜いた住民の思いを踏まえ、外間氏は3期目の町政のかじ取りに臨んでほしい。
 対立候補の新人崎原正吉氏は善戦した。外間氏の得票は、同様に自衛隊誘致が争点となった2009年より66票減った。前回は反対派に103票を付けたが、今回は崎原氏に47票差まで迫られた。
 自衛隊誘致派と反対派が鋭く対立したが、この選挙結果をもって自衛隊配備が全面的に信任されたとまでは言えまい。外間氏と政府は票差に表れた島の複雑な民意を重く受け止めるべきだ。
 反対派住民が求め続ける住民投票に外間氏は理解を示してきた。政府と共に「民意は誘致」とごり押しする姿勢に転じて、住民が自己決定権を示す機会となる住民投票の可能性を消してはならない。
 与那国は、国政選挙や県議会議員選挙では、自衛隊誘致側の保守系候補者が革新系候補者に水を開ける保守地盤だが、町長選ではその差が縮まる傾向にあった。
 今回は、町が6月に自衛隊用地となる町有地賃貸の仮契約を防衛省と締結し、配備に向けた手続きが加速する中で、島を二分する激しい選挙となった。
 「自衛隊は産業」と位置付ける外間氏は自衛隊配備で人口減少に歯止めを掛け、町有地賃貸料を活用した給食費無料化などを重点政策に掲げ、支持を得た。
 崎原氏は、町民への説明なしに自衛隊配備を進めたと現職を批判し、土地改良事業推進、台湾との交流強化などを通した自衛隊抜きの自立を掲げたが、及ばなかった。
 自衛隊の配備目的は国と町で同床異夢が続く。町は経済効果を主張するが、自衛隊は島しょ防衛力強化を挙げている。約100人の沿岸警備部隊が駐屯しても、経済効果は短期的、限定的との指摘もある。
 自衛隊配備をめぐる本質論は尽くされていない。対立を超え、地理的、文化的な潜在力をどう磨くのか。正念場が続く「国境の島」の自己決定の営みを注視したい。