県障害者権利条例 県は丁寧で柔軟対応を


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 「県障害のある人もない人も共に暮らしやすい社会づくり条例案」の策定作業が大詰めだ。県は素案についての県民意見を今月19日まで募集しており、来年4月の施行を目指している。最終段階に来て、条例制定のきっかけをつくった「障がいのある人もない人もいのち輝く条例づくりの会」と県との間に見解の相違が出ている。県が設置した障害者県民会議の条例案にあった前文が、県の最終素案から削除されたことが理由で、こうした不協和音が生じたのは残念だ。

 県民会議の前文には「障害のある人もない人も全ての県民が等しく地域社会の一員としてあらゆる分野に参加できる社会、いわゆるインクルーシブ社会の実現を目指す」との理念が書かれていた。前文をなくした理由について県総務部は「(条文の)目的に書き込めるものは、目的規定に入れるのが一般的なルール」と説明する。
 確かに第1条に前記の理念の部分は盛り込まれた。しかし前文には島しょ県の沖縄で離島の障がい者の置かれた厳しい環境を指摘し、「ユイマール」など県民の相互扶助精神があるものの、障がい者の「自己の望む生活」が十分実現できていないなど地域事情を記している。いわば条例制定を目指す「魂」ともいえる大切な部分だ。
 県は近年の条例制定では直接の法的効果を生じない前文については国の法令にのっとって一律に置いていないとの立場を示す。しかし同様の条例を制定している5道県のうち北海道を除く4県は前文を置いている。県の対応はしゃくし定規ではないか。前文の復活を求める「いのち輝く条例づくりの会」の思いに寄り添ってほしい。
 素案ではまた、市町村の相談員配置義務を明記していない。地方分権の観点から県が市町村事務を規定できないとの理由は一理あるが、障がいを理由にした差別解消に相談員設置が不可欠なのも事実だろう。障がい者福祉サービスの既存の相談員がいない自治体もあり、県は条例を反映した体制が全市町村で敷かれるよう努力する必要がある。
 県は署名提出を受けてから、当事者や学識経験者らで構成する県民会議を設置するなど、当事者や家族の意見を尊重し、起案段階から共同で条例づくりを進めてきた。多くの人が納得できる条例にするためにも、県は最後まで丁寧かつ柔軟な対応を貫いてほしい。