エジプト情勢 弾圧は悪循環招くだけだ


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 7月に起きたエジプト軍のクーデターに反発するモルシ前大統領支持派と治安部隊の衝突が深刻化している。暫定政権と軍が、首都カイロなどで座り込みを続けるムスリム同胞団の支持者の強制排除を開始した14日以降、死者がエジプト全土で800人以上に上っている。負傷者や逮捕者の数も膨れ上がっている。

 暫定政権の残虐な強権発動は、決して正当化できない。即刻停止すべきだ。国の分断を回避するためにも暫定政権と軍、モルシ氏支持派など各勢力は暴力を自制し、対話のテーブルに着くべきだ。エジプトの持続的な発展と民主化のために最大限歩み寄ってほしい。
 16日の強制排除に対して、モルシ氏の出身母体、イスラム組織ムスリム同胞団は「平和的なデモを虐殺した」と非難。国際社会からも「市民の大虐殺だ」(マケイン米上院議員)などと批判が相次いでいる。だが、軍主導の暫定政権は「モルシ派はテロリスト」と断じ、徹底弾圧の構えだ。
 「アラブの春」と呼ばれた2011年2月のムバラク政権打倒から2年半。エジプトの民主化は、暗礁に乗り上げた。軍事独裁時代を彷彿(ほうふつ)とさせる非常事態だ。
 軍のクーデターを背景に発足した暫定政権に民主的正統性はない。しかし、暫定政権が厳然として実権を握り、アラブ諸国など多くの国も暫定政権を容認している。
 本来ならクーデターの前に、モルシ氏が自ら辞任し国民に信を問う選択肢もあった。後戻りできないのなら、暫定政権主導の下、速やかに民主的選挙を行い新大統領を選び直すか。苦しく難しい選択だが、エジプト国民は自らが納得のいく収拾策を編み出してほしい。
 エジプトは治安悪化に伴い外国投資や観光客が遠のき、経済が悪化している。財政も危機的状態でいずれ、国際通貨基金(IMF)などから融資を受けるなら補助金と公務員数の削減など痛みを伴う構造改革を求められる可能性がある。民主化が後退し、政権が不安定化すれば改革などおぼつかない。
 市民への弾圧は報復、憎悪の連鎖など悪循環を招く。暫定政権と軍がモルシ氏支持派を排除すれば、民主化はますます困難となろう。地域大国エジプトの危機は中東諸国にとっても人ごとではない。国連や周辺諸国もエジプトの再生に支援の手を差し伸べるべきだ。