派遣3年期限撤廃 労働者保護を尊重せよ


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 労働者派遣制度の見直しを検討してきた厚生労働省の有識者研究会が報告書をまとめた。企業が一つの業務に派遣労働者を使用できる期間を最長3年に制限する現行ルールを撤廃し、人を入れ替えれば派遣を継続使用できるようにすべきだと提言している。

 規制緩和が繰り返された派遣制度は民主党政権でいったん規制強化に移行したが、提言は規制緩和路線への回帰を意味する。制度変更で正社員が減少し不安定雇用が拡大するのなら、労働環境の改善とはならず企業優位の見直しとなりかねない。
 今回の提言に基づけば企業が正社員の仕事を派遣労働者に置き換えやすくなり、非正規雇用がさらに増加する懸念がある。正社員から派遣への置き換えに歯止めを掛ける仕組みを設けるよう提言もしているが、機能するかは不透明だ。
 労働者派遣制度は、人材派遣会社(派遣元)が雇用する労働者を企業(派遣先)に派遣する仕組みだ。2011年の派遣労働者数は137万人だ。企業にとっては人員調整がしやすくコストを抑制できる利点がある一方、雇用の不安定さや派遣労働者と正社員との処遇の格差が生じるなど問題も多い。
 1986年の労働者派遣法施行以降、規制緩和が繰り返されてきた。バブル崩壊後の不況下で安上がりな労働力を派遣労働に求めた産業界の強い要請が背景にあったからだ。その結果、2008年秋のリーマン・ショック以降の急激な景気悪化で、派遣切りが続出し社会問題化したのは記憶に新しい。
 その教訓もあって政府は「労働者の保護」にかじを切り、規制強化を進めてきたはずだ。安倍政権は「世界で一番企業が活躍しやすい国」を目指しており、今回の提言はこの方針に沿っている。しかし、派遣労働の規制撤廃によって当面の企業収益が上がっても、雇用者所得全体が減れば消費や売り上げが低迷し、経済全体では悪循環に陥るのは目に見えている。
 派遣労働者やパートなどの非正規労働者の数は今年4~6月期平均で1881万人となり、統計を取り始めた02年以降、過去最多を更新した。雇用の質が改善されていないのは問題だ。厚労省の今年3月の実態調査では60・7%の派遣労働者が「正社員として働きたい」と答えている。政府はこうした声にこそ耳を傾け、不安定雇用が拡大しない抜本的な方策を講じるべきだ。