シリア化学兵器 早急に立ち入り調査を


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 もはや猶予ならない情勢だ。シリアのアサド政権の軍部隊が反体制派支配地区を砲撃した際、化学兵器が使われた疑いが浮上した。国連の調査団による一刻も早い緊急立ち入り調査が望まれる。

 シリアでは2011年春、「アラブの春」が影響して反政府デモが発生、内戦に発展した。シーア派系のアラウィ派が中枢にいるアサド政権とスンニ派主体の反体制武装勢力の対立が背景にある。内戦は泥沼化し、10万人以上が死亡、190万人超が難民になっている。
 収束しない裏には大国の思惑もある。アサド大統領の退陣を求める米欧と、政権を擁護するロシア・中国の溝が深く、国連安全保障理事会が全く機能していないのだ。安保理は既に3回、対シリア決議を採決したが、いずれも中ロの拒否権行使で廃案になった。
 シリアは中東有数の化学兵器保有国とされる。昨年来、化学兵器使用がささやかれてきたが、今年4月、英仏は「政権が使用した証拠がある」と国連に報告。米国も6月、使用を結論付けたと発表した。これに対しロシアは7月、「使用したのは反体制派」とする独自の報告書を国連に提出した。
 こうした状況を受け国連の調査団が今月18日、シリア入りした。化学兵器の専門家ら20人が2週間かけて聴き取りや土壌調査、医学的試料の採取を行う。
 ようやくこぎ着けた本格調査のさなかに発生したのが今回の砲撃だ。アサド政権は「国連調査団の滞在中に化学兵器を使うなど想像すらできない」と完全否定だ。ロシアは「ロケットは反体制派の占拠地域から発射された」と指摘。米国は「反体制派に化学兵器使用の能力はない」と述べている。
 確かに、あえて調査団がいる中でわざわざ使った意図は考えにくいが、反体制派は「(政権は)国連がいる中でもどんなこともできると見せつけ、反体制派を絶望させようとした」と見る。
 英国など35カ国が緊急調査を求めている。反対しているロシアと中国は論理的に矛盾している。反体制派が使ったと言うなら、その点も含めて徹底調査した方がいいではないか。
 どちらが使ったにせよ、緊急調査の実施自体が次の使用を抑止することになろう。速やかに調査を実現すべきだ。大国の利害で国連が機能しない間に、無辜(むこ)の民が命を落とし続けるのは許されない。