TPP閣僚会合 急ぐ理由はどこにある


この記事を書いた人 Avatar photo 琉球新報社

 ブルネイで開かれた環太平洋連携協定(TPP)閣僚会合は、年内妥結に向けて「重要な節目」となる首脳会合を10月に開くとした共同声明を発表し閉幕した。

 アジア太平洋経済協力会議(APEC)に合わせて首脳会合を開いて大筋合意し、年内妥結を目指す方向だ。年内決着を急ぐ米国の意向を反映したものだが、日程ありきの交渉の進め方には強い疑問を禁じ得ない。
 TPP交渉参加について日本政府は「国益」を強調するが、それが本当に国民の利益につながるのか依然不透明であり、農業や医療関係者らをはじめ、国内では反対意見も根強い。年内妥結ありきの拙速な議論は到底許されないと肝に銘じるべきだ。
 そもそも米国が年内決着を急ぐのは、来年秋に中間選挙を控えたオバマ大統領の実績づくりにあるとされる。オバマ政権の公約である輸出倍増計画の達成に向け、TPPを最大の成果として有権者にアピールしたい思惑だが、あまりにも動機が不純すぎる。
 閣僚会合後の合同記者会見では「米国が自国のルールを押し付けているのでは」との質問も出た。「米国益」を隠そうともしない露骨な姿勢に、TPPの危うい本質が見え隠れする。これでは対等かつ公正な貿易交渉とは言えまい。
 実際、参加12カ国による交渉は、焦点となっている関税撤廃や知的財産をはじめ、いまだ多くの分野で難航しており、年内妥結へのハードルは極めて高い。
 特に日本が聖域に掲げるコメや麦、サトウキビなど甘味資源作物などの重要5品目の取り扱いは、現時点でも一切不明だ。今回の交渉では、米国やオーストラリアとの関税交渉に入れず9月中旬以降にずれ込む見通しだ。残りわずか3カ月で国民が納得できる結論を導き出せるのか、甚だ心もとない。むしろ乱暴と言うべきか。
 にもかかわらず、甘利明TPP担当相は年内妥結目標で米国と歩調を合わせた。国有企業の扱いをめぐる現行案に懸念を示すマレーシアなどが越年を辞さない構えを示したのとは対照的だ。
 安倍晋三首相はTPP交渉参加を「国家百年の計」と大見えを切ったが、ならば、なおさら焦りは禁物だ。国益を守り切る見通しが立たぬなら、交渉脱退も選択肢とすべきだろう。国民の安定した暮らしと安全を最優先すべきだ。