秘密保護法案 国民不在の法制化やめよ


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 国の安全や外交に関する機密を漏えいした国家公務員らを法で処罰する「特定秘密保護法案」の成立へ向け、安倍政権が罰則対象から「報道目的」の除外を検討するなど環境整備を加速させている。

 政府は報道の自由や国民の「知る権利」への配慮を印象づけ、法制化の地ならしをしたいのだろう。だが、法律家からはかねて秘密保護法制化作業の閉鎖性や非民主性、表現の自由に対する萎縮効果の甚大性など批判が相次いでいる。
 政府の「由(よ)らしむべし知らしむべからず」という態度は、国民を愚弄(ぐろう)するもので看過できない。秘密保護法制定は自明ではない。立法の是非について、白紙状態から公明正大な議論を尽くすべきだ。
 法案は、名称を従来の「特定秘密保全法案」から「特定秘密保護法案」に変更。安全保障に関する機密を(1)防衛(2)外交(3)外国の利益を図る目的で行われる安全脅威活動の防止(4)テロ活動防止-に分類し、そのうち特段の秘匿の必要性がある情報を「特定秘密」に指定する。
 特定秘密を漏らした国家公務員や、民間人でも特定秘密を得るために(1)人をあざむき、暴行を加え、脅迫する(2)窃取(3)施設への侵入(4)不正アクセス-などの行為をすれば懲役10年の刑もあり得る。共謀や教唆、扇動も処罰対象。「報道目的」が教唆に該当する可能性があるとされる。
 この法律が制定されれば「特定秘密」の指定対象を実質的に判断する官僚の裁量権が拡大する。もし官僚の胸先三寸で際限なく「特定秘密」の範囲が広がれば、公務員ら特定秘密保持者や報道機関に対する萎縮効果が強まるだろう。
 秘密保護法制の有識者会議の検討は民主党政権時代に非公開で行われたが、議事録が残っていない。議事要旨は報告書に反映しているというが、これが官僚が作成した素案の追認なのか、有識者の意見を十分反映したものか確認できない。知る権利の制限を密室で決める政策形成方法は、民主主義に反し危険だ。
 政府は秋の臨時国会で法案成立を目指す。憲法上の国民の権利を侵害し立法を強行するなら、法治国家にあるまじき政権の暴走というほかない。米国から機密情報の管理に不信感を持たれれば日米同盟にひびが入ると言いたいのだろうが、では自国民との信頼関係は破壊してもいいのか。本末転倒の政策遂行は即刻改めるべきだ。