シリア軍事介入 米国は踏みとどまる決断を


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 米国のオバマ大統領は、シリアが自国民に対し化学兵器を使用したと断定し、軍事介入に乗り出す決断を下した。その一方、オバマ氏は、米議会から承認を取り付ける決議案を出し、備えが整っていた攻撃を先送りした。

 オバマ氏が主張する、ミサイルや空爆による限定的な攻撃であったとしても、罪のない市民の命が奪われ、流血の事態を招くことは避けられない。
 内戦状態にあるシリアから隣国に逃れた200万人近い難民が、攻撃によってさらに増えることは必至であり、人道的危機も到来することになる。
 攻撃先送りを機に、米国は軍事介入ありきの姿勢を改め、対話による停戦を促す姿勢に立ち返り、踏みとどまる決断を下すべきだ。
 シリアと近いロシア、中国の反対により、国連安全保障理事会で武力行使容認が決議される見通しは全く立たない。ここへきて、国際社会の中で、泥沼に陥ったイラク戦争の教訓を踏まえ、軍事介入を避ける動きが顕在化している。
 米国を含め、軍事介入への反対論が上回る各国の世論は重い。
 米国と協調していた英国は、攻撃許可を求める動議を議会が退け、攻撃参加を断念した。最も緊密な同盟国である英国は、2001年のアフガニスタン攻撃、03年のイラク戦争など、戦後史に残る大規模紛争で米国と行動を共にした。軍事行動寸前に英国が離脱する事態は、歴史的にもほぼなかった。
 米国が強い影響力を持つ北大西洋条約機構(NATO)加盟国の中でも、カナダ、イタリアが不参加を早々と決めている。フランスも米国抜きの単独では攻撃を行わない姿勢を示した。
 国連決議なしの武力行使の正当性が揺らいでいるのである。
 武力行使は憎悪の連鎖を招き、テロなど新たな報復行為を拡大しかねない。仮に使用が証明されたとしても、軍事介入に反発したシリアが再び化学兵器を用いれば、米国は軍事介入の度合いを強めるのか。行き着く先は泥沼化しかあるまい。
 国際的な孤立感を深めたオバマ氏は、自ら攻撃開始にブレーキを掛けた。挙国一致の体制構築に向けて米議会に対する説得を強めているが、容認されるかは不透明だ。
 米国が描いた「有志連合」は崩壊した。米国は、単独主義に陥ってはならない。外交努力はまだ尽くされていない。