本土訓練分散 実質的解決にはならない


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 防衛省が、米軍普天間飛行場に配備した海兵隊のMV22オスプレイを参加させた日米共同訓練を滋賀、高知両県で10月に実施すると発表した。住民の安全性への懸念をほとんど顧みず、沖縄常駐、県内訓練、県外訓練と既成事実を積み重ねていることに憤りを覚える。

 琉球新報が今年7月に実施した県民世論調査では8割超がオスプレイの沖縄追加配備を拒絶していた。事故率が高く、米メディアから「未亡人製造器」「空飛ぶ恥」と揶揄(やゆ)されてきたオスプレイを、大半の県民は命と安全への脅威と感じている。オスプレイの配備そのものに反対しているのであり、県外への訓練分散は県民が望む本質的な問題解決策とは言えない。
 県議会、県下41市町村の全ての首長、市町村議会がオスプレイの県内配備に反対だ。今年1月には県民代表が普天間飛行場の閉鎖・撤去を求める建白書を安倍晋三首相に提出した。これほど明確な民意を無視もしくは抑圧するなら、日米は民主国家と言えまい。
 本土への訓練分散で、オスプレイ配備問題は新局面を迎える。
 滋賀では10月上旬から、陸上自衛隊と米海兵隊による定期的な戦時想定の訓練を陸自饗庭野演習場(高島市)で行う。高知など4県では、10月下旬に南海トラフ巨大地震を想定した防災訓練を実施。海上自衛隊護衛艦を拠点に、オスプレイが海上での被災者の捜索や患者搬送の任務を担う計画だ。
 民生部門も絡めた日米合同訓練で、政府はオスプレイの有用性をアピールするだろう。政府は自衛隊へのオスプレイ導入を視野に入れており、本土への訓練分散はそれに向けた地ならしの意味も帯びる。しかし、国民合意もないままオスプレイ導入を進めていいのか。
 日米両政府は盛んに安全性を強調するが、海兵隊のオスプレイに限っても06年以降30件以上事故が起きた。日米が「安全」を強調するのは、ほとんど詐欺に等しい。
 米国の安全保障専門家からも辺野古移設見直し論や海兵隊のオーストラリア移転、米本国撤退論が出ている。環境の変化を見据え、オスプレイと普天間飛行場の撤去が検討されてしかるべきだ。それを手がかりに、軍事面が突出した日米関係そのものを見直すべきだ。両国民の信頼に根差した持続可能な日米関係に成熟させるべく、国民全体で熟議を始めるときである。