シリア対応 米は“負の教訓”思い出せ


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 ロシア・サンクトペテルブルクで開かれた20カ国・地域(G20)首脳会合は、シリアへの軍事介入に反対する意見が半数を占めた。

 軍事介入を決断したオバマ米大統領は、G20で国際的な支持を広げる狙いだったが、その思惑は外れたと言える。むしろ軍事介入に自重を促す国際社会の“米国包囲網”は強まった格好だ。
 軍事介入に踏み切れば、単にシリアや中東地域にとどまらず、世界規模で対立、混迷が深まるのは必至だ。攻撃への議会手続きを進めるオバマ大統領は思いとどまり、国際社会との協調路線にかじを切るべきだ。
 G20では、軍事介入に反対するロシアや中国との対立が際立っただけでなく、米国の同盟・友好国からも慎重な声が相次いだ。
 介入支持を明言したのはフランスやトルコなど5カ国で、10カ国が国連安全保障理事会の決議のない介入に否定的だった。英国は議会の否決で介入を断念。日本や韓国は態度を明言していない。
 米国に同調し、介入に前向きだったフランスにも変化があった。オランド大統領はG20後の会見で、化学兵器使用疑惑に関する国連の調査結果を待つ考えを表明した。国際社会の風向きを敏感に感じ取ったのだろう。賢明な判断だ。
 米国への国際的な支持が広がらないのは、軍事介入の正当性への疑念と内戦泥沼化への懸念が強い証左だ。
 米政府は、アサド政権が大規模な化学兵器攻撃を実行したと断定したが、具体的な情報は開示しないままだ。結局は見つからなかった大量破壊兵器を開戦理由としたイラク戦争を想起させる。
 さらにオバマ政権は、約190カ国が加盟する化学兵器禁止条約への明確な違反と主張するが、シリアは加盟しておらず、そもそも同条約は軍事制裁を規定しない。
 米国は「国際規範の維持」を主張するが、国連安保理の決議なく攻撃に踏み切ることは、潘基文(バンキムン)事務総長が指摘するように、それこそ国際法違反だ。オバマ大統領は、軍事介入を正当化できない自己矛盾に気付くべきだ。間違っても孤立を深め、単独行動主義に走ってはならない。
 シリア攻撃については米市民も過半数が反対している。裏返せば、米市民も政治的解決を望んでいるということだ。泥沼化したイラクやアフガニスタンでの負の教訓を今こそ思い起こすべきだ。