五輪開催地に東京 夢と感動 世界と共に 被災地復興を忘れるな


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 国際オリンピック委員会(IOC)は、2020年の夏季五輪とパラリンピックの開催都市に東京を選んだ。56年ぶり2度目となる。

 東日本大震災の復興は道半ばで、政治、経済、外交に閉塞(へいそく)感が漂い、将来に不安を抱く国民は多い。平和の祭典の開催は、国民に希望を抱かせる朗報だ。夢と感動を世界と共に分かち合い、スポーツ文化を一層高める礎にしたい。
 経済効果は3兆円とされ、景気回復の足取りが強まることが期待される。その恩恵は幅広い国民が享受せねばならない。
 一方で、国威発揚ムードが先走り、被災地復興や社会的弱者の救済を置き去りにしてはならない。

■選手が押し上げ

 東京は、スペインのマドリード、トルコのイスタンブールとの激しい招致合戦を制した。東京の高度な都市機能は「安全で確実な五輪」を印象付け、基金4千億円を積み立てた財政基盤の強さも評価された。
 安倍晋三首相が開催地決定の総会に乗り込むなど、政財官民を挙げた招致活動を印象付けたことも奏功した。IOCの有力委員を巧みに取り込んだロビー活動も2009年の敗退の教訓を生かした。
 多くの勝因の中でも、選手たちの五輪開催に懸ける情熱が活路を開いたのではないか。IOCが実施した支持率調査で、2012年5月時点の東京は47%にとどまり、低い支持率が弱点とされた。
 その年のロンドン夏季五輪で日本選手団は過去最多の計38個のメダルを獲得した。全てを懸けて打ち込むアスリートの努力の尊さ、困難を克服する精神力とチームワークの強さ-。選手団の活躍は国民にスポーツの魅力を再認識させてくれた。
 50万人が繰り出して選手と感激を共有した東京・銀座での凱旋(がいせん)パレードは、五輪招致ムードを盛り上げる大きな転機となった。ことし3月の支持率は70%にはね上がり、懸念を拭い去った。
 五輪開催の波及効果は大きい。幼いころから競技を始め、五輪選手を目指す中高校生から現役の成人選手、その指導者は、自国開催の五輪出場の夢を描き、情熱を高めるだろう。それは着実に競技力向上に結び付くはずだ。
 日本のスポーツ界は、お家芸の柔道などで勝利至上主義に陥った暴力的な指導が明るみに出て、国際的に厳しい視線を浴びている。東京五輪に向け、競技力向上やスポーツ振興の望ましい在り方をめぐる本質的議論を深めてほしい。

■首相発言に危うさ

 開催地決定の際、福島第1原発の汚染水漏れがIOCや各国メディアの関心を集めたが、安倍首相の説明には事実と異なる部分があり、危うさが否めない。
 首相は最後のプレゼンテーションで、「私が安全を保証する。状況はコントロールされている」「影響は港湾内で完全にブロックされている」などと断言した。
 しかし、政府が総合的な対策を決めたのは今月3日で、汚染水流出を完全に食い止めるめどは立っていない。汚染水は、港湾内にとどまらず、外洋にも流れている。
 安倍首相が「安全」を宣言したことで、汚染水問題の解決など、原発事故の収束は国際公約となった。安倍首相は、重い責任を抱え込んだ。
 福島の被災者は「『汚染水は大した問題じゃない。東京は安全だ』と聞くと、置いてきぼりのような感じで寂しい」と胸中を吐露している。政府は、五輪招致に注いだのと同等以上の情熱で、復興への取り組みを加速すべきだ。
 五輪開催国に選ばれた日本は、2010年代中盤以降、国家間の利害を超えて、国際協調を導く重要な役割を担うことになる。
 歴史認識などで内向き志向が強まっているとして、日本は、国際社会から右傾化を警戒されつつある。それを自覚し、五輪開催を機に領土問題などの諸課題で、国際協調を重んじ、平和的解決に尽くす国家像を紡ぎだしてほしい。