首相「汚染水発言」 空手形の乱発は無責任だ


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 国際オリンピック委員会(IOC)総会における2020年東京五輪招致のプレゼンテーションで、安倍晋三首相が東京電力福島第1原発の汚染水漏れに関し「状況はコントロールされている。今後も東京にダメージを与えることはない。私が保証する」と断言した。

 1日300トンの汚染水が海へ垂れ流されてきた。汚染がどこまで拡散しているのか、政府は十分な情報を公表していない。そもそも状況を把握していないのではないか。首相は一体、何を「保証する」というのか。
 首相は報道陣の質問に答える形で「汚染水の影響は福島第1原発の港湾内0・3平方キロメートルの範囲内で完全にブロックされている」と強弁したが、これも事実にもとる。連日の事故関連ニュースや、放射能への懸念で福島の漁師が出漁中止に追い込まれている現実などを見れば、分かり切ったことだ。
 安倍首相はまた、日本の食品や水の安全基準は世界で最も厳しいなどと強調した。しかし、これも調査に裏打ちされた説明を丁寧にしなければ、日本製品の安全性を懸念する国際社会は納得しまい。首相は「健康問題には今までも、現在も、将来も問題ないと約束する」と述べたが、根拠なき“空手形”を乱発するのは慎むべきだ。
 汚染水をめぐり安倍政権が政府を挙げた総合対策を決めたのはIOC総会直前の今月3日だった。汚染水漏出の試算が明らかにされてから、1カ月近くが経過していた。国の対応はいかにも鈍すぎる。五輪招致への影響を指摘されて慌てて動いたとの批判を免れない。
 総合対策で示された原子炉建屋を囲む凍土遮水壁の設置や汚染水浄化設備の増設で、汚染水漏れを阻止できる保証はどこにもない。政府には現状を正直に国際社会に説明し、技術的知見の提供などで協力を仰ぐ謙虚さこそ必要だろう。
 今回の首相発言で、20年東京五輪までに事故収束と第1原発の廃炉に向けた作業を確実に軌道に乗せることが日本の国際公約となった。首相は今後、政権の命運と自らの政治生命をかけて速やかな被災地復興と原発事故収束に全力を尽くさねばならない。
 首相が発した「今後も東京にダメージを与えることはない」との発言は、被災者の痛みへの配慮を欠いている。地元住民は「福島はおいてけぼりか」と傷ついている。この点は、首相に反省を求めたい。