対シリア新提案 外交的英知で解決図れ


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 行き詰まっていた事態が一変した。外交的英知とはこういうものかと考えさせられる。米国の軍事介入が迫っていたシリア情勢をめぐり、ロシアがアサド政権の持つ化学兵器の国際管理を提案した。

 局面は大きく動きだした。米大統領は「打開策になり得る」と肯定的な態度を示し、フランスは提案を踏まえ、国際管理下での廃棄を求める国連安保理決議案を提出する構えだ。
 時宜を得たロシア提案を高く評価するとともに、あくまで武力でなく外交的な解決を求めたその姿勢に敬意を表したい。同時に、国連安保理が再び機能を取り戻し、徹底した調査の上で、時限を明示した検証可能で不可逆的な廃棄策を打ち出すよう期待したい。
 経緯を見ると、まさに外交的な知恵の結果だったことが分かる。
 ケリー米国務長官は9日昼の会見で攻撃回避の条件を問われ、「来週中に保有する化学兵器を全て国際社会に引き渡し、検証させること」と述べた。その発言を知ったラブロフ露外相はすぐケリー氏に電話を入れ「そのアイデアを進めてみたい」と述べた。露外相はシリア側と即座に折衝したのだろう。国際管理を提案すると、シリアもこれまで保有を否定していたはずの化学兵器の存在を前提に、「提案に合意する」と表明した。
 当初、提案に否定的だった米政権が肯定に転じたのは、米国の世論と議会の逆風が強かったからだろう。支持取り付けの時間稼ぎになると判断したとの観測もある。
 確かに、提案が単なる「すり替え」(英首相)に利用されてはならない。米国も提案を軍事行動への時間稼ぎにせず、化学兵器廃棄へ粘り強く外交努力をしてほしい。
 同時に、シリア政府にも、分散配置されているはずの化学兵器を全て提示する義務がある。それが「全て」であることを証明する義務もまた、シリア政府にあることを強く自覚してもらいたい。
 一方で、化学兵器の使用が戦争犯罪であることも忘れてはならない。国連の調査団の調査を再び受け入れ、全面的に協力し、今回の事案で本当に化学兵器が使われたのか、使ったのなら政府軍か反体制派のどちらか明確にし、首謀者を突き止め、国際刑事裁判所で裁くべきだ。
 空爆が始まれば罪のない市民が多数死傷するのは間違いない。回避は絶対条件だ。提案を軸とした外交的解決をあくまで望みたい。