2米兵不起訴 暗黒社会招く不正義だ


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 この国は正義が実行されない社会になってしまったのか。ことし5月に長崎県佐世保市で日本人女性に性的暴行を加えたとして書類送検されていた米兵2人について、長崎地検は嫌疑不十分で不起訴処分にした。「起訴するに足りる証拠がなかった」と説明するが、十分な捜査をしているとは言い難く、強い疑問が残る結論だ。

 この事件を捜査した長崎県警は米兵2人の身柄引き渡しを米側に要求していない。逮捕せずに任意で事情を聴いた上で書類送検した。日米地位協定では米軍人、軍属の身柄が米側にある場合は、起訴までは日本側に引き渡さないことを定めている。しかし1995年の日米合同委員会合意で、殺人、強姦(ごうかん)などの凶悪犯罪は起訴前の身柄引き渡しについて米側が「好意的考慮を払う」ことになった。
 今回の事件は日米合意に該当する。不平等な地位協定に限定的といえ風穴を開けた権利すらも行使しない警察の姿勢は、加害者側に立っているとしか思えない。
 米兵2人は佐世保基地内にとどめられていたが、拘禁状態にあったのかは不明だ。証拠隠滅や連絡を取り合って口裏合わせをすることさえ可能だったと疑わざるを得ない。過去に県内で発生した強盗致傷事件では、禁足中の兵士同士が基地内で会っていた。検察は公判で「口裏合わせをしていた可能性が高い」と批判した。それなのに長崎地検は今回の事件で引き渡しを要求しなかったことについて「影響はない。必要な捜査は遂げた」と説明する。何の根拠をもって遂げられたと言えるのか。全く説得力がない。
 1953年の日米合同委非公開議事録で、日本側代表が「(米兵の事件なら公務外でも)特に重要な事案以外、日本側は第一次裁判権を行使するつもりはない」と発言し、法務省は同じ年に全国の地検に対して「重要と認められる事件のみ裁判権を行使する」と通達している。今回の長崎地検の結論をみると、この密約と通達に従って裁判権を事務的に放棄したとしか思えない。
 日本の捜査機関は国民の生命財産を守らず、加害者を無罪放免にすることをこれからも続けるのだろうか。これでは不正義がまかり通る暗黒社会ではないか。基地の集中する沖縄にとって、被害者側に立っているとは思えない今回の結論は到底容認できない。