台湾漁船衝突 早急に操業ルール確立を


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 由々しき事態と言わざるを得ない。日台漁業協定の適用水域内で台湾漁船が八重山漁船に衝突した。協定締結時からトラブルの増加は懸念されていたが、現実のものとなってしまった。

 協定は白紙撤回するのが筋だが、現実問題として台湾が応じる見通しは立たない。まずは一刻も早く台湾側との間で操業ルールを定めてもらいたい。その上で、あるべき協定の姿へ改定を図るべきだ。
 沖縄の頭越しで強引に協定を結んだ政府は、いったいどう責任を取るのか。協定締結を急がせた菅義偉官房長官は当時、抵抗する水産庁を押し切る際、「(沖縄の漁業への対応を)自分の責任で最後までやる」と述べたという。それなら被害に遭った漁船に対し、政府が十分な補償をすべきだ。
 元はと言えば石原慎太郎東京都知事(当時)の尖閣購入発言がきっかけだ。石原氏は昨年4月、尖閣の土地購入を宣言し、その後、都の船で上陸する構えを示した。日中関係悪化を恐れた政府が一足先に確保しようと国有化したことで、日中関係は一気に緊迫した。政府は中国と台湾の連携を恐れ、両者を分断するため日台漁業協定の締結を急いだ。協定で沖縄の漁民に犠牲を強いるのは承知の上だった。
 ナショナリズムをあおる政治家と政府の不用意かつお粗末な対処の結果、地域の漁民が不利益を被るという構図だ。彼らは今の事態にどう責任を取るのだろうか。
 協定は拙速だった。沖縄の漁民は政府に、久米島西方の水域の確保と日中中間線での線引きを求めたが、かなわなかった。中間線での線引きが難しかったのは認める。解せないのは、政府が久米島西方の水域も譲歩した上、先島の北方で台湾が一方的に主張する暫定執法線よりさらに拡大して台湾側に操業を許した点だ。
 はえ縄の切断や盗難など、今までもあったトラブルがさらに増えるのは目に見えていた。それなのに操業ルールさえ定めぬまま協定を締結した政府は無責任すぎる。案の定、今回の事故が起きてしまった。
 今のままでは同様の事態の続発は避けられない。縄の切断や衝突などの事故を避けるため、政府の責任で航行や漁法のルール確立を急ぐべきだ。無線連絡を含めた緊急時の意思疎通の在り方も定めたい。その上で漁船の隻数や漁獲量、漁獲時期の制限も設けるべきだ。