尖閣派遣発言 誠実を欠く印象操作だ


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 その気もないのに、目先の利益のために印象操作の発言をする。まさに「巧言令色鮮(すく)なし仁」を地でいく発言だ。

 ジョン・ウィスラー在沖米四軍調整官が「(垂直離着陸輸送機MV22オスプレイを)必要があれば日米同盟のために尖閣に派遣することも考えられる」と述べた。
 本気で行く気もないのに述べたのであれば無責任で、誠実を欠く。本気で行く気なら、米本国の方針を逸脱していよう。いずれにせよ、在沖米軍トップとしての資質を疑う。
 最近、日米両政府はさもオスプレイが尖閣のために役立つかのような印象操作を繰り返している。
 今回の発言もまさにそうだ。尖閣をめぐって日中が戦闘に入った場合、さも在沖米軍がオスプレイを飛ばして戦うかのように装う。だがオスプレイは輸送機だ。戦闘できるはずがない。兵員を運ぶにも、尖閣に降ろす土地があるのか。しかも大型で狙われやすい機体が、丸腰で紛争地を飛べるのか。
 米国の軍事評論家カールトン・メイヤー氏も「たった24の輸送機で抑止力が向上するとの主張はばかげている」と述べた。それが軍事の常識だ。使うはずもないのに有用性を強調するのは不誠実だ。
 海兵隊の駐留は、有事の際に中国や台湾にいる米国人を救出するためであり、沖縄や日本のためではない。沖縄にいる理由はないのだが、海兵隊は全世界で米本国に二つと沖縄に一つの3個師団しかなく、沖縄から撤退すれば今の規模を維持できる見込みが薄い。しかも今、強硬な予算削減要求にさらされている。組織存続がかかっているのでウィスラー氏も不用意な前のめり発言をしたのだろう。
 在日米軍が尖閣で戦うというのも印象操作だ。米国の立場は「尖閣は日米安保条約5条(日本防衛義務)の対象だが、領有権問題では日中間で中立」というものだ。
 日米安保条約は「米国の憲法に従って行動する」と規定する。米国憲法は戦争宣言の権限が議会にあると定めている。だから5条適用とは、せいぜい「米国議会の承認を求めるよう努力する」程度でしかない。欧州に攻撃があれば自動的に米国も戦争に参入すると定める北大西洋条約とは対照的だ。
 米国内で、東シナ海の無人島のために米国の若者が血を流すべきだと考える人がどれだけいるか。発言はその意味でも非現実的だ。