ブラジル盗聴 米国は非を認め謝罪せよ


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 ブラジル大統領のルセフ氏が訪米を中止した。米国家安全保障局(NSA)が大統領の通話や電子メールを傍受していたことが発覚したからだ。

 米機関によるスパイ行為が、表現や思想良心の自由を脅かしている。看過できない事態だ。米国はブラジルをはじめ盗聴対象とされた国と個人に、非を認め謝罪すべきだ。
 NSAの盗聴問題は、米中央情報局(CIA)元職員スノーデン氏によって暴露された。
 監視対象は日本や欧州連合(EU)諸国など38の米国内の大使館や代表部と国連本部、数百万人に上る個人の通話履歴などだ。
 そして今回、ブラジルでの盗聴が明らかになった。米国は「合法的な活動」と主張し、ブラジル人を含む世界中の人々をテロ行為から守っていると説明する。だが明らかに矛盾している。テロとは関係のない同盟国の官僚まで情報収集の対象にしているからだ。
 「合法的」という説明も不適切だ。NSAによる情報収集の過程で、プライバシー保護に関する規則や権限からの逸脱などが明らかになっている。そもそもブラジルの法で合法と言えるのか。
 「外交関係に関するウィーン条約」は、大使館などの公館は「不可侵」との原則を定め(22条)、ホスト国は外国使節団の「自由な通信を許し、かつ保護しなければならない」(27条)と定めている。盗聴器を仕掛ける行為は明らかに不正行為だ。
 通信や電磁波を媒介とする傍聴活動はシギント(SIGINT)と呼ばれる。非合法活動をしても秘密保護を盾に国民の目から遠ざけられる。スノーデン氏の暴露がなければ闇に葬られていただろう。
 スノーデン氏が暴露した事実は、対岸の出来事ではない。日本でも自衛隊の情報保全隊が、イラク派遣に反対する市民集会などをひそかに監視し、情報分析していたことが明らかになっている。
 さらに日本政府は、防衛や外交の分野で指定する「特定秘密」を漏らした公務員らへの罰則強化を盛り込んだ特定秘密保護法案を、秋の臨時国会に提出する方針だ。
 大事な情報や、監視活動など政府にとって都合の悪いことが隠される恐れがある。国家が情報統制し、表現や思想良心の自由を制限するのであれば、民主主義の否定以外の何物でもない。