津波犠牲賠償命令 震災の教訓を共有したい


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 東日本大震災で宮城県石巻市の私立日和幼稚園の送迎バスが流され、園児5人が犠牲になった事故で、仙台地裁は大津波の予見は可能だったと認定し、園側に約1億7700万円の支払いを命じた。自らを守る手だてのない子どもたちの命を預かることに、非常に重い注意義務を課した。施設管理者に情報収集や迅速な判断に努める必要性を突き付け、今後想定される南海トラフ巨大地震などの津波などに備え、手だてを尽くすよう警告した形だ。

 園側は「千年に1度の大津波を予想することは不可能」と主張したが、判決は「巨大地震は予想できなくても(現地で)最大震度6弱の揺れを約3分も体感したのだから巨大津波は容易に予想できた」と退けた。
 子どもの生命を守るという立場からみると、当時の園の判断は適切だったとは言い難い。宮城県教育委員会の震災指針では「職員はラジオなどで情報収集に努める」とある。しかし園長は津波を心配せず、ラジオを聞かず、情報を積極的に収集していない。園の近くの防災無線の拡声器では2分間隔で、沿岸からの避難を呼び掛けていたが、園長は「聞こえなかった」と話している。
 また園のマニュアルでは大地震発生時には標高約23メートルの高台にある園に園児をとどまらせ、保護者に引き渡すと定めていた。それなのに園長は震災発生から10分後に園児を送迎バスで帰宅させるよう指示し、よりによって海沿いへと向かわせてしまった。「命を守れたはず。子どもを預かる立場の大人が考える機会にしてほしい」と遺族が判決後に訴えた言葉を今後の事故防止の教訓として受け止めたい。
 沖縄県は今年1月にマグニチュード9・0の地震を想定した津波の浸水予測図をまとめた。最大遡上高が20メートル以上になる地点は32カ所、5メートル以上は134カ所ある。また県教育委員会は今年になって災害、地震、津波など児童生徒の安全確保や危機回避能力を育成するための「危機管理マニュアル(手引書)」を発刊し、県内小中高校に配布した。
 こうした情報などを踏まえ、県内各団体も日ごろから避難訓練の実施や避難手順などをしっかり確認し、手だてを万全にしておく必要がある。判決を踏まえ、対策に生かして尊い命を救う知恵を県民全体で共有したい。