名護市と外交 閉塞破る斬新な試みだ


この記事を書いた人 Avatar photo 琉球新報社

 限られた人々の意見だけが発信され、限られた人々の見解だけが入ってくる。これが日米間の政治・外交システムの現状だ。

 名護市が日米間の情報の受発信を担うシンクタンク「新外交イニシアティブ」(ND、猿田佐世事務局長)への加入を決めたのは前記のシステムの限界に気付いたからだろう。今の沖縄の閉塞(へいそく)状況を打開する可能性を秘めている。先見性に富んだ市の斬新な試みを高く評価する。
 猿田氏が象徴的な話を紹介している。普天間基地問題が焦点だった鳩山政権時代の2009年12月、この問題を所管する米下院のアジア太平洋環境小委員会の委員長が猿田氏に「沖縄の人口は2千人くらいか」と尋ねた。あぜんとした猿田氏が「百万人以上います」と答えると、「では飛行場を一つ造ってあげることが彼らのためになるのでは」と述べたという。
 この程度の認識しかないことを嘆いても仕方がない。情報の回路が限られていることの反映だからだ。こと軍事に関して、日米安保で「メシを食う」、いわゆる「安保マフィア」が日米間の情報の受・発信回路を専売特許のごとく握っている。その構造が問題なのだ。
 在日米軍問題で大手メディアが伝える米国の「声」はアーミテージ元国務副長官、グリーン元国家安全保障会議アジア上級部長らが多い。彼らは今の辺野古移設計画をつくった米側当事者だ。計画への疑問を言うはずがない。彼らの声を反復している限り、常に同じ意見が「米国の結論」となってしまう。だが米側には多様な声がある。その多様性が、日本国内にはなかなか伝わらないのだ。
 逆方向もしかり。米側に日本の「声」を伝えるのは専ら外務省・防衛省だが、彼らもまた合意の当事者だ。移設計画の非現実性を伝えるはずもない。沖縄の反対意思を過小評価して伝えているだろうことも想像に難くない。
 だから、沖縄の反対は金欲しさの見かけ倒しだ、との見立てがまことしやかに語られる。最近も飯島勲内閣官房参与がそんな見解を書いていた。
 名護市のND加入はその構造を破り、市が自ら情報の発信元になることを意味する。「金欲しさ」との中傷を払拭(ふっしょく)する効果があろう。何より米国内の多様な意見の団体・機関と直接つながり、声を伝えられる利点がある。「安保マフィア」以外との関係づくりに期待したい。