憲法解釈見直し 「法の支配」が地に落ちる


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 安倍晋三首相は集団的自衛権の行使を禁じた政府の憲法解釈見直しに向けて、「いかなる憲法解釈も国民の生存や国家の存立を犠牲にしてはならない」と述べた。

 17日の有識者による「安全保障の法的基盤の再構築に関する懇談会」(座長・柳井俊二元駐米大使)で発言した。首相は「憲法制定以来の変化を直視し、新しい時代にふさわしい憲法解釈の在り方を検討していく上での基礎となることを期待したい」とも述べ、憲法解釈見直しの積極提言を促した。
 甚だしい憲法軽視発言だ。憲法解釈見直しによる集団的自衛権の行使容認は、憲法9条を無意味化する改憲の先取りであり反対だ。
 自国と密接な関係にある国が攻撃された場合、自国が直接攻撃されていなくても実力で阻止できる集団的自衛権について、政府はこれまで、わが国も国際法上は保有しているものの、憲法9条の制約で行使できないと解釈してきた。
 それがある日突然「解釈が間違いでした」となれば、この国の「法の支配」は地に落ちてしまう。
 首相は最近、外交・安保に関する包括的な指針となる「国家安全保障戦略」の策定に向けた別の有識者懇でも、「国際協調に基づく積極的平和主義」を強調した。
 首相は「積極的平和主義」について詳しく説明していないが、これは2009年に森本敏氏(のちの防衛相)ら安保専門家がまとめた政策提言「積極的平和主義と日米同盟のあり方」が参考になる。
 この提言では軽武装・経済発展を重視した戦後外交の路線、いわゆる「吉田ドクトリン」の根本見直しを打ち出していた。日本の防衛政策の基本である(1)専守防衛(2)軍事大国にならない(3)文民統制の確保(4)非核三原則-について再検討・再定義の必要性を指摘し、集団的自衛権行使の容認、「武器輸出三原則」の根本的見直し、機密保全法制の整備なども求めている。
 つまり、民主党政権時代から安倍政権の今日に至るまで加速している安保政策のタカ派路線への転換が、「積極的平和主義」の美名をまぶした形で着々と進んでいる。
 憲法の平和主義を本当に大切に思うなら、人間を中心に据えた安全保障の強化で世界をリードすることにこそ日本の使命を見いだすべきだ。軍事偏重の安保観で改憲に進むのは愚かだ。首相はこの国を軍国主義へ回帰させてはならない。