安保理シリア決議 内戦終結で国連の真価示せ


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 国連安全保障理事会はシリアのアサド政権に化学兵器全廃を義務付け、違反した場合の制裁を警告する決議案を全会一致で採択した。化学兵器禁止機関(OPCW)も来年半ばまでの全廃を柱にした廃棄計画を決定した。

 シリア内戦が外交的解決へ歩み出したものと評価したい。米国などが軍事介入すれば内戦が泥沼化し、多くの無(む)辜(こ)の市民が巻き添えになる可能性も否定できなかった。
 ただ、手放しには喜べない。中東民主化運動「アラブの春」の影響を受け、シリアで反政府デモが2011年3月に本格化して以来2年半が経過しているが、この間、アサド政権が反体制派と真摯(しんし)に向き合わず武力弾圧を繰り返した事実は糾弾されてしかるべきだ。
 国連などによると、既に内戦の死者は11万人を超え、難民は200万人に達した。国際社会は冷静な情報分析と綿密な計画で、内戦収束を加速してほしい。
 今回の安保理決議は、シリアにおけるあらゆる化学兵器使用、とりわけ8月21日の攻撃は国際法違反であると強く非難しているが、アサド政権を名指しはしていない。政権、反体制派双方に、化学兵器の使用、開発、製造、入手、貯蔵、移転を禁じた。妥当な措置だ。
 内戦下のシリアでは査察要員の安全確保が課題だ。アサド政権も反体制派もOPCWの査察や国連要員の活動に全面協力すべきだ。
 化学兵器の使用は国際法に違反する戦争犯罪だ。国連は誰がシリア国内で化学兵器を使用したのか真相を究明し、首謀者を国際刑事裁判所で厳正に裁くべきだ。
 現政権と反体制派は国際社会の監視下で通常兵器の使用を自制し、停戦に進むべきだ。シリア国民も納得するような民主化、新政権樹立の方向へ向かうべきだろう。
 シリアでは政権、反体制側の双方が自らの正当性を強調したり、相手の指導者を「独裁者」「残虐」とののしったりするなどプロパガンダ合戦が激しい。何が真実なのか判然としない場合が多い。シリア情勢をめぐり米ロ両国の見解が度々対立するのはその証左だ。
 暴力による対峙(たいじ)を許容する限り、憎悪、報復の悪循環が繰り返される。安保理は内戦の外交的解決によって、国連の真価を示すときだ。シリア政府と反体制派勢力も決議を順守し、暴力ではなく、対話による解決の道に戻ってほしい。