震災被災地報道 風化防ぐ責任の重さ刻む


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 東日本大震災の発生から2年半が過ぎたが、復興は遅れ、福島第1原発事故は収束の気配さえない。だが、被災地以外で震災の記憶が薄れつつある現実が横たわる。

 東北のブロック紙である河北新報(仙台市)は1面で、東北各県と全国の大震災による死者、行方不明者数を毎日掲載している。
 死者が1万5883人(29日現在)に及ぶ未曾有の人的被害と、原発事故を招いた大震災を決して風化させまいという気概が伝わってくる。
 「震災被災地で問う 日本のあすとメディアの責任」をテーマに、全国の報道機関の記者らが報道の在り方を検証する「マスコミ倫理懇談会」の全国大会が仙台市で開かれた。「被災者の苦しみや犠牲者の思いを忘れず、復興に向けて役割を果たしていく」。全体会議はこう申し合わせた。
 被災者のまなざしで、山積みの課題を徹底的に掘り下げる震災報道のあるべき姿を胸に刻みたい。私たちメディアは被災者と共に歩み、風化に歯止めを掛ける責任を果たさねばならない。
 開催地を代表してあいさつした、一力雅彦河北新報社長は「沖縄の基地問題と同様に、地方の当事者に責任を強いる国の在り方を問い、立ち向かいたい」と語った。
 阪神大震災で自らも被災した、長沼隆之神戸新聞社会部次長兼編集委員は「被災者に風化はない。その悲しみ、痛みと心を重ね、体験を共有財産にしないと、同じ被害が起きる」と警鐘を鳴らした。
 岩手日報社の●悟報道部次長は、復興を妨げる法制度の不備を突き、「積極的に発信し、制度を変える全国的なうねりをつくりたい」と述べた。犠牲を無駄にしないという決意を込め、「被災地の責任」を強調する姿に胸を打たれた。
 被災地視察で、地元の語り部に共通したのは「被災地に寄り添ってほしい」という要望だった。原発事故の関連報道が前面に出る影で、被災地の苦境が報じられなくなっているという危機感も強まっていた。
 児童74人が犠牲になった石巻市立大川小学校では、市教委の調査に不満を募らせている遺族が「子どもが死に追いやられた真相を究明し、教訓を残さないと無駄死にになってしまう」と訴えた。悲痛な叫びに言葉を失った。
 「被災地に寄り添う」が、掛け声倒れに終わってはならない。震災報道の軸足として肝に銘じたい。

注:●は、木へんに神