是正要求 文科省は「恫喝」やめよ 教育への政治介入は暴挙


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 恣意(しい)的な法解釈に基づく地方教育行政への政治介入である。八重山教科書問題で文部科学省は、育鵬社教科書を拒否して別の教科書を使う竹富町教育委員会に対し、是正要求を出すことを決めた。

 是正要求に従わなければ、国が自治体を訴える違法確認訴訟も検討するという。小さい自治体にとって訴訟費用の負担は重い。自治体の財政力の弱さを見越した「恫喝(どうかつ)」の意図がうかがえる。
 地方教育行政に政治的意思で圧力をかける暴挙は許しがたい。識者は是正要求が最高裁判例に反すると指摘する。竹富町はこの「恫喝」に屈せず、堂々と今の教育行政を続けてほしい。

印象操作

 文科省の動きは全国世論向けの政治的印象操作の疑いが濃厚だ。
 沖縄を除けば、国民のほとんどは八重山教科書問題の詳しい経緯を知らない。「教科書無償措置法違反」と政府が言えば、竹富町教委が何か悪い行為をしているように全国に印象付けられる。それが政府・与党の狙いではないか。
 だが経過を知れば竹富町教委の姿勢は至極正当と分かるはずだ。
 経過を振り返る。石垣・竹富・与那国3市町の教育委員会の諮問機関・八重山採択地区協議会(会長・玉津博克石垣市教育長)は2011年8月、中学公民の教科書に「新しい歴史教科書をつくる会」系の育鵬社版を選び、3市町教委に答申した。
 玉津会長が不透明かつ非民主的手法で手続きを変えた上での選定だった。教科書を読み込んで推薦する調査員は協議会の規定により「役員会で選任」のはずだが、役員会を経ず玉津氏が独断で選定した。その調査員ですら育鵬社版を推薦しそうもないとなると、「調査員の推薦がない教科書も選定できる」と規定を変えた。協議会も非公開にし、無記名投票とした。
 子どもの教育内容を決める過程が非民主的とは皮肉だ。しかも歴史教科書で「つくる会」系教科書を選ぶか否かは激論を交わしたが、公民は議論がないままの採決だった。
 手法を疑問視した竹富町教委は育鵬社を不採択とし東京書籍版を選んだ。3市町教委は9月、今度は地区内全教育委員による協議で育鵬社を不採択とし、東京書籍を採択した。
 だが石垣・与那国両教委はこの協議を無効と主張。文科省も「協議が整っていない」と判断した。8月の採択は3市町教委とPTA代表ら8人の合議だ。9月は3市町教委13人全員が参加した。8月が有効で9月が無効とする文科省の論理は、得心がいかない。

イデオロギー

 竹富町教委は国による教科書無償配布の措置を受けられないまま、12年度から第三者の寄付を得て教科書を配布している。
 採択に前後して玉津氏は当時野党の義家弘介自民党参院議員から協力を得ていた。その義家氏が今の文科政務官だ。今回の是正要求も義家氏の存在が大きい。政治的意思の働きが垣間見える。
 義家氏は「イデオロギーの問題ではない」と言うが、仮に自治体の構成が逆だったら育鵬社版の自治体に是正要求を出すだろうか。
 問題の背景には教育関連の二つの法の矛盾がある。地方教育行政法は教科書採択権が市町村教委にあると定める。竹富町教委の決定はそれに基づく。一方、地区内の教科書一本化を求める教科書無償措置法はあくまで国の財政措置の要件を定める法だ。
 二つの法は採択地区協と市町村教委の判断が分かれる例を想定していない。教科書に関する「執行権」を持つ市町村教委の判断より、「答申」する諮問機関にすぎない地区協の判断を優先すべきという論理は、まっとうではない。
 そもそも竹富町は違法と言えるのか。町が教科書無償化の恩恵を受けながら無償措置法の規定を守らないなら同法違反とも言えよう。だが独自財源で購入するなら法の対象外のはずだ。なぜ同法違反か。文科省の解釈は非論理的だ。