消費税増税 税の在り方本質論議を 無駄遣い徹底削減が先だ


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 次から次に疑問がわく。消費税増税はどうしてもふに落ちない。最たる疑問は消費税を引き上げる一方、法人税を減税する点だ。

 法人税は企業の3割しか納めていない。納めぬ赤字法人は中小企業が多いから、法人税減税の受益者は大企業が中心だ。一方、消費税は逆進性が高く、低所得者の負担が高所得者より重い税である。
 消費増税で低所得の庶民に重い負担を求める一方、大企業を優遇するのでは、国民の納得が得られるとは思えない。政府はまず税の在り方や行財政改革をめぐる本質的な議論を徹底して行うべきだ。

大盤振る舞い

 増税の狙いは財政再建だが、再建の方策は単純に言えば二つある。税収増と支出削減だ。
 このうち支出削減は、まるで議論がなされていない。民主党政権が始めた事業仕分けも、予算額で言えば国の全事業のうちの数十分の一にすぎず、それすら途絶えた。ほとんどの事業の点検は手つかずである。湯水のごとき無駄遣いがつとに指摘される米軍への思いやり予算などはその一例だ。
 むしろ政府は事業の徹底した点検、無駄遣い追放にこそ全精力を傾注すべきではないか。ところが今回、国土強靱(きょうじん)化や五輪特需の名の下に、またぞろ公共事業の大盤振る舞いが復活する気配だ。優先順位をはき違えている。
 もう一方の税収増も、本質的な論議を欠く。
 戦後の日本が世界でも類を見ない格差の少ない社会をつくりあげたのは、税制も要因だったという識者の説がある。消費税導入前の税制は高所得者に高い税率の所得税を課す累進課税が特徴だった。その水平的分配の機能により、納税後の所得は格差が小さくなったのだ。
 ところが1989年の税制改革以降の日本はこれと逆の方向に進んだ。所得税の累進性が緩和された上、逆進性の高い消費税が導入された結果、貧しい者の負担が重く、富める者がより富む格差社会を生み出した。そういう指摘だ。
 だとすれば、負担できる者がより多くの負担をする「応能負担」の原点に戻るべきではないか。格差の少ない社会になれば治安維持など社会的コストも小さくて済み、収入を増やして支出を抑える一石二鳥の効果を持つ。「応能負担」の考え方に立つなら、所得税の累進度高進や資産税や相続税、贈与税の強化、宗教法人課税などを視野に入れるべきではないか。タックスヘイブン(租税回避地)への逃避防止なども当然、徹底すべきだ。

危険な運転

 安倍晋三首相は「消費税収は社会保障にしか使わない」と強調するが、一方で6兆円もの大盤振る舞いの経済対策を行うのだからむなしく響く。しかも「社会保障と税の一体改革」のはずが、社会保障の将来像が見えないのだから、ちぐはぐとの感は否めない。
 経済対策は「景気の腰折れを防ぐ」という名目だが、その効果にも疑問がわく。アベノミクスの経済対策は「富裕層が先に潤う」形だ。重ねた升の、上の升に注いだ水があふれてすぐ下の升に入り、さらにあふれるとその下に流れるという構図だが、経済対策がその構図通りに運ばなかった例は古今、枚挙にいとまがない。
 企業が増えた所得を給与に回さず内部留保するという例がその一つだ。復興法人税の前倒し廃止も恩恵は従業員の所得に回るというが、その分を給与に払う保証はない。企業向けに比べ生活者向けの対策が手薄な点も大いに疑問だ。
 沖縄への影響も懸念される。観光は「水もの」で景気に左右されがちだ。だから観光の比重が高い沖縄経済は景気変動の振れ幅が全国より大きくなる。消費型社会で、円安による食品・燃料値上げの影響を受ける中での増税でもある。痛手は深刻になりかねない。
 増税と一体の経済対策は「ブレーキとアクセルを同時に踏むようなもの」だ。「危険な運転」の是非を政府は再検討すべきだ。