汚染水漏えい 国家事業で処理を急げ


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 東京電力福島第1原発の地上タンクで新たな汚染水漏れが判明した。作業員がせきにたまった雨水をポンプで傾斜地に設置されていたタンクに移送したためだ。

 容量の99%まで入れようとしたことで、傾いているタンクから汚染水があふれ、一部は排水溝から外洋へ流出している。
 放射性物質の濃度が低い雨水の流出を防ぐ作業によって、タンク内の高濃度汚染水を外洋に流出させる本末転倒な結果となった。単純ミスが相次ぎ、状況はますます悪化の一途をたどっている。もはや東電だけに対策を任せるわけにはいくまい。
 これまでも汚染水漏えいが繰り返されてきた。7カ所に設置された地下貯水槽のうち3カ所から汚染水が漏れ出し、貯水槽が使えない深刻な事態になった。原因は3重の防水シートにほころびが生じていたためだ。あまりにお粗末だ。
 8月にはタンク群で約300トンの漏えいが見つかった。このためタンク周辺の巡回を1日2回から4回に強化したが、今回の漏えいも半日にわたって見つけることができなかった。巡回強化が何の抑止効果につながっていない。
 新たな汚染水処理施設「多核種除去設備(ALPS)」も3系統のうち1系統が先月27日に試運転を開始したが、約22時間半後に不具合で停止した。タンク内部に置き忘れたゴム製のシートが排水口をふさいだからだ。30日から処理を再開したが、今月4日には異常警報が鳴ったため再び処理を停止している。残り2系統もタンク内部に腐食が見つかり、試運転が中断されている。東電の取り組みは悪循環を繰り返しており、汚染水をコントロールしているとは、とても思えない。
 安倍晋三首相は国際オリンピック委員会(IOC)総会で汚染水について「状況はコントロールされている」と明言した。今回の漏えいを受けても、胸を張って言えるのだろうか。菅義偉官房長官は漏えい後の会見で「対応策が十分とは思っていない」との見解を示しながらも「全体としてコントロールできている」と強弁した。言葉遊びをしている場合ではなかろう。
 政府は汚染水問題で前面に出て取り組むと誓ったはずだ。国家プロジェクトとして抜本的な対策に乗り出すときだ。一義的には東電が責任を負うべきだが、国も傍観者的態度は許されない。