安倍政権とTPP 危うい公約違反と主権軽視


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 自由貿易の意義を喧伝(けんでん)する新たな経済枠組みの協議が、秘密裏に非民主的な形で進められる交渉の在り方はやはり間違っている。日米など12カ国が進める環太平洋連携協定(TPP)交渉のことだ。インドネシアで開かれた6日の閣僚会合では全品目の関税を撤廃する自由化の原則維持で一致した。

 一方、政府・自民党はTPP交渉で「聖域」と位置付けてきた農業の重要5品目の関税維持を求める従来方針を転換し、関税を撤廃できるか否かの検討に入った。
 自民は昨年の衆院選で「聖域なき関税撤廃を前提にする限り交渉参加に反対」との公約を掲げ、コメ、麦、牛・豚肉、乳製品、サトウキビなど甘味資源作物の重要5品目を守る姿勢を鮮明にした。これは政権奪還の追い風になった。
 関税維持方針を撤回するのなら公約違反であり、国民への背信行為だ。本県のサトウキビ産業にも壊滅的打撃を与えかねない暴挙だ。公約撤回は看過できない。
 TPPは投資を活発にするルールなど、ほかの分野でも交渉の難航が伝えられる。医薬品の特許権や映画などの著作権の保護策を話し合う「知的財産」、国有企業を改革し、民間企業と競争条件を平等にする「競争政策」、排ガス規制や水産物の資源管理を議論する「環境」がその代表と言われる。
 企業が投資先の政府を訴えることができる「投資家と国家の紛争解決(ISDS)条項」については日米は導入に前向きだが、新興国では訴訟大国・米国の企業からの訴訟増加に対する警戒感が強い。
 日本は、衆参の農林水産委員会が「国の主権を損なうような『投資家と国家の紛争解決(ISDS)条項』には合意しない」と決議を行い、法曹界には「日本の司法権が損なわれる」との反対論がある。
 グローバリゼーションの進展に伴い、持続可能な自由貿易体制の確立が重要課題であるのはうなずける。だが貿易自由化の観点から新ルール作りを急ぐあまり、国内の法制度や産業・雇用環境の激変、過疎化と地域集落の衰退、食料自給率低下に伴う食料安全保障の脆弱(ぜいじゃく)化などを招いては、国家の自立的・持続的発展は望めない。
 国運を左右する意思決定を、国会の意思、国民との約束、国家主権をないがしろにして行うことはアンフェアだ。TPPは民主的手順を踏んで議論をやり直すべきだ。