米犯罪処分通知へ 当たり前の運用改善だ


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 日米両政府が在日米軍の軍人、軍属の犯罪に関する日米地位協定の運用を見直した。米軍による裁判の確定判決だけが日本政府に通知される現状を見直し、未確定判決や軍の懲戒処分、不処分も通知することが日米合同委員会で合意された。一見して前進したかのような錯覚に陥るが、本来なら、こうした処分は全て通知されるべきものである。

 そもそも、これまでの運用自体が妥当だったのかとの疑問が湧いてくる。日米地位協定第17条6項bは「日本国の当局及び合衆国の軍当局は、裁判権を行使する権利が競合するすべての事件の処理について、相互に通告しなければならない」と規定している。確定判決だけでなく、全ての処分も通知すると解釈するのが自然だろう。
 しかし実際には米側に裁判権がある米軍人、軍属の公務中の犯罪は、裁判で判決が確定した場合にだけ判決内容が外務省に通知されていた。外務省から被害者への連絡も米側の同意が必要で極めて限定的だった。いかにも不自然だ。
 2008年の交通事故では、米海軍の軍人車両が対向車線に進入し、衝突したバイクの運転手が死亡した。軍人は公務を理由に不起訴となり、海軍は軍人に「過失や不注意がない」として刑事処分を科さなかった。対向車線に進入した軍人が不処分となる理不尽な結論は遺族に伝えられていない。
 海軍が結果を初めて明らかにしたのは3年後の11年に琉球新報社が出した質問への回答だった。さらに日本政府は同年に国会議員の質問通告を受けるまで米側に照会すらしていなかった。国民の生命、財産を守る姿勢すら感じられない。
 今回の運用改善で被害者に本来伝えられるべき処分内容が通知されるようになる。運用見直しをしっかり機能させてもらいたい。
 それにしても、今回の合意で成果を強調する政府の姿勢に強い違和感を覚える。岸田文雄外相は「沖縄県民の負担軽減につなげないといけない。米軍再編の動きへの理解につながることを期待したい」と述べた。
 外相はこの運用改善を機に、普天間飛行場の名護市辺野古沖への移設計画に理解を求める腹づもりだろう。何とも恩着せがましい。運用改善を材料に普天間飛行場の県内移設を進めようとするのなら、筋違いだ。県民の総意が日米地位協定の抜本改定であることを肝に銘じるべきだ。