水俣条約 地球規模規制への第一歩


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 水銀による健康被害や環境汚染の防止を目指す「水銀に関する水俣条約」が採択された。

 水俣病を経験した熊本県で開かれた国際会議で、水銀被害を繰り返さない条約をまとめた意義は大きい。「ミナマタ」が水銀汚染防止の象徴として語られるようになることを期待したい。
 水銀は常温で唯一液体になる金属で、気化しやすい。富士山頂の大気中から、全国平均を上回る濃度の水銀が検出された。中国大陸からの越境汚染とみられている。インドネシアでは金鉱石の精錬に使う水銀による環境汚染が深刻化している。汚染は海にも広がり、クジラやアザラシへの蓄積が確認されている。
 国連環境計画(UNEP)によると、2010年の世界の大気中への水銀排出量は推定1960トン。アジアからの排出がほぼ半数を占める。
 採択された「水俣条約」は(1)一定用途以外の水銀の輸出を規制(2)水銀を一定量含む蛍光灯などの製造、輸出入を2020年までに原則禁止(3)大気や水、土壌への排出削減(4)適切な保管と廃棄-などを定めている。
 地球規模で水銀を規制する大切な一歩だ。しかし課題も残る。
 第一に水銀の輸出を禁止ではなく規制にとどめたことだ。日本はリサイクルした水銀をアジアなどに供給する輸出国で、昨年度の輸出量は約8万4千キログラム。環境保護団体から「輸出後、転売されて金採掘現場などで使われている」と批判されてきた。条約に明記されていなくても水銀の輸出を即刻停止すべきだ。
 第二に発展途上国の小規模な金採掘現場での使用は直ちに禁止されなかった。生活のためとはいえ、水銀による土壌や河川の汚染は取り返しのつかないことになる。
 第三に汚染源の企業などが補償や環境回復の責任を負う「汚染者負担の原則」が条約に明記されなかった。責任の所在があいまいになりかねない。
 水俣病の被害者は、英語訳で「victim」(犠牲者)ではなく「sufferer」(苦しむ人)だという。水銀汚染による苦しみが現在まで続いていることを忘れてはならない。
 日本は蓄積してきた水銀汚染の実態解明と解決を目指す研究を広く公開し、水銀を使わない代替技術開発に貢献するなど、実効性のある水銀対策に取り組んでほしい。