ノーベル平和賞 化学兵器廃絶は人類の責務


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 今年のノーベル平和賞に、内戦下のシリアで化学兵器の廃棄作業に着手した化学兵器禁止機関(OPCW)の受賞が決まった。

 ノーベル賞委員会のヤーグラン委員長は「平和賞がシリアの内戦停止の第一歩になってほしい」と述べ、現地で困難な課題に取り組むOPCWを支援する意図を表明した。シリアの人道危機解決に向け、国際社会への一層の結束と取り組みを促す強いメッセージと受け止めたい。
 OPCWは、化学兵器の開発、生産、保有を禁じる化学兵器禁止条約(1997年発効)に基づき設立された。リビアやイラクなど治安が不安な地域も含め、世界各地で危険と隣り合わせの査察活動を展開してきた。平和賞は、シリアでの活躍への「期待先行」との指摘もあるが、長年の地道な取り組みと着実な実績が背景にある。
 化学兵器禁止条約の未加盟国は、14日にシリアが正式加盟国となると、北朝鮮やイスラエルなど6カ国だけとなる。化学兵器全廃を求める国際潮流は確固としており、核兵器廃絶とともに人類の願いでもある。未加盟国は、国際社会にいつまでも背を向けることは許されないと自覚すべきだ。
 ノーベル賞委員会は、授賞理由の中で、決められた期限までの化学兵器廃棄を順守していないとして、米国とロシアを名指しで批判した。シリア対応を主導する両国がこのありさまでは、国際社会に対する説得力と信用性を欠く。米ロは協調し迅速に対処すべきだ。
 一方、日本もOPCWに職員を派遣するなど関わりがある。旧日本軍が中国に遺棄した化学兵器の廃棄処理が義務付けられており、OPCWに進行状況を報告している。オウム真理教事件では、OPCWが旧教団施設を査察した。
 いわば日本にとって化学兵器は、無縁でも遠い過去のものでもない。それこそ多くの死傷者を出したサリン事件で、化学兵器の非人道性を目の当たりにした当事国だ。日本は米ロへの働き掛けを含め、従来にも増して主導的な役割を積極的に果たしてもらいたい。
 事前には、女子教育の権利を訴えたパキスタンの16歳の少女マララ・ユスフザイさんが有力視されていた。受賞こそ逃したが、女性が過酷な境遇に置かれている途上国の実態を訴え、世界的な関心を高めた意義は計り知れない。ノーベル賞級の賛辞を送りたい。