臨時国会開会 国の進路で徹底論戦を


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 第185臨時国会が召集され、安倍晋三首相が所信表明演説を行った。耳に心地よい美辞麗句が並んだ陰で、何が語られなかったのかにも注意したい。

 経済政策については盛んに言及したが、集団的自衛権行使容認については明言を避けた。憲法改正に向けた国民投票法案も特定秘密保護法案も今国会に提出する方針なのに、言及しなかった。いずれも日本の戦後の歩みを根本から覆す重要法案だ。首相はむしろ国会の場で本格論戦し、正面から是非を問うべきだ。
 言及があった政策も、具体像が定かでない点がある。演説で首相は福島第1原発の汚染水対策について「東電任せにせず、国が前面に立って責任を果たす」と述べた。五輪誘致前から同様の発言をしてきたが、1カ月たった今も「国が前面に立つ」どころか、対応は専ら東電で、しかも失策を繰り返している。「国が果たす」ことは何か、具体的に明示すべきだ。
 環太平洋連携協定(TPP)についても「年内妥結に向け守るべきは守る」と述べたが、守る内容が不分明だ。自民党は「聖域なき関税撤廃を前提にする限り交渉参加に反対」と公約し、交渉参加の際もコメなど重要5品目は撤廃対象にしないから公約違反ではないと主張してきた。だが今、党幹部は「(聖域から)抜けるか抜けないか検討する」と明言する。ならばその是非を問うべきではないか。
 消費税も、「増税分は全額社会保障に充てる」はずなのに、なぜ8兆円分を増税して5兆円分を経済対策に投じるのか、演説を聴くだけでは分からない。消費税を上げながらなぜ企業の税負担を軽減するのかも同様である。
 特定秘密保護法案は政府の持つ情報を国民の目から隠す法案だ。何が「特定秘密」か決めるのは政府で、国民はそれが正しいか否か判断できず、後で検証もできない。
 憲法は国民主権を定めるが、情報がなくては主権者も正しい判断ができないから、これは国民から主権を剥奪することになりかねない法案だ。それほど重要な法案をなぜ首相が自ら説明しないのか。
 集団的自衛権行使容認の解釈改憲も、国会で本格的に論議すべきテーマだ。なぜ首相が堂々と掲げないのか、理解に苦しむ。国の進路を大きく左右する争点の数々だ。臨時国会の短い会期にとらわれず、慎重かつ徹底的に論戦すべきだ。