戦没者DNA鑑定 条件を緩和し身元確認急げ


この記事を書いた人 Avatar photo 琉球新報社

 厚生労働省が2003年度から始めた戦没者遺骨のDNA鑑定で、沖縄戦戦没者の件数は8月末現在、48件(全国1676件)あり、うち身元が判明したのは県外出身の日本兵2件にとどまっている。

 遺族の癒やされぬ思い、残された時間を考えると、国の対応はいかにも遅い。DNA鑑定基準を大幅に緩和するなど、政府は速やかに抜本的改善策を講じるべきだ。
 県内の身元判明が遅々として進まない一方で、旧ソ連地域や南洋群島といった戦地から収骨された遺骨は877人の身元が判明している。この違いについて、厚労省は従来、南方地域は高温多湿なためDNAが壊れやすく抽出しにくい、旧ソ連地域は寒冷・乾燥した気候で遺留品や戦没者の所在に関する資料が比較的残っている-との説明を繰り返してきた。
 国が示す遺骨のDNA鑑定の条件は、(1)戦没者や遺族を推定できる死亡者名簿などの記録資料(2)遺族からの検体提供(3)鑑定に有効な遺骨のDNA抽出-の三つだ。しかし、遺骨収集の関係者の間では、この基準がそもそも厳しすぎるとの見方が一般的だ。
 国が始めた戦争に多くの住民が巻き込まれ、戦場を逃げ惑い、死に追いやられていった。国が海外の戦没者との同じ基準にこだわるあまり、沖縄の特殊事情に配慮せず、無策を続けるなら怠慢だ。
 県内で精力的に遺骨収集を続けるボランティア団体ガマフヤーの具志堅隆松代表によれば、兵隊100人の遺骨のうち名前のある遺品がある例は5人に満たず、戦火を着の身着のまま逃れた住民の遺品所持は皆無だという。この現実を前にすれば、実効ある改善策を講じるのが自然な感覚だろう。
 具志堅氏は収集した全遺骨と、希望する全遺族のDNA鑑定、それらの記録保存(データベース化)を国の責任で実施するよう求めてきた。これは戦没者や遺族に寄り添い、最後の一人まで遺骨収集を徹底することで沖縄戦の史実を風化させまいとする真摯(しんし)な姿勢の表れであり、全面的に支持したい。
 厚労省統計によると、県内の収骨は09年度173柱、10年度128柱、11年度159柱、12年度103柱で推移している。
 時の経過とともに遺骨は傷み、遺族の記憶も薄れ、身元確認は困難を極めよう。DNA鑑定条件の改定は一刻の猶予もならない。