在外被爆者訴訟 能動的な援護へ舵を切れ


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 大阪地裁が、韓国在住被爆者らの医療費全額支給申請を却下した大阪府の処分を取り消し、海外在住被爆者に対しても被爆者援護法が定める医療費全額支給を求める初の司法判断を示した。

 海外在住被爆者は、海外に住む外国籍・日本国籍の被爆者を指す。判決は在外被爆者が長年「差別的」と問題視してきた医療費全額支給に関する画期的な判断だ。速やかに被爆者援護法を改正し、在外被爆者が自己負担した医療費の全額給付を明文化すべきだ。
 援護法は、被爆者がやむを得ない理由で日本にある指定医療機関以外で治療を受けた場合、国は医療費の自己負担分を全額支給できると規定。しかし、在外被爆者が居住地で治療を受けた場合は「医療保険制度など体制が違う」として同法の対象外とされてきた。ただ、援護法とは別に、医療費を上限(2013年は原則年17万9千円)を決めて助成している。
 「支給の適正性を担保できない」との国の主張を、地裁は「支払いが不当に高額になるとは見込まれない。在外被爆者を除外する明文の規定はない」として退けた。
 田中健治裁判長は、戦争を遂行した国の責任で救済する援護法の国家補償の性格に言及した上で「規定を国内限定と解釈する必然性はない」と指摘。つまり、医療給付を国籍や居住地の違いでさじ加減してはならないということだ。
 原告の一人で広島で胎内被爆した李洪鉉さん(67)は判決後、日本政府に医療費の上限撤廃を強く求めた。長年差別されてきた在外被爆者の「心の痛みを分かってほしい」とも述べた。国や府は在外被爆者の精神的・経済的負担を重く受け止め、控訴を断念すべきだ。
 在外被爆者の援護格差については「被爆者はどこにいても被爆者」とする2002年の大阪高裁の判決を受け、国は在外被爆者への手当支給を開始。月約3万3千円(現在)の健康管理手当は、かつては国内で被爆者手帳を取得しても出国すれば受給資格を失うとされた。だが、司法判断を受けて海外からも手当申請が可能となった。
 被爆者援護は年々改善してはいるが、それは被爆者の提訴と司法判断を待って受動的に動くパターンの繰り返しだ。国は「援護法の全面的な平等適用」を求める市民の声を真摯(しんし)に受け止め、能動的な援護行政へ舵(かじ)を切るときだ。