メニュー偽装 自浄能力発揮する機会に


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 ふだん、家で味わうことができない高級感の漂う料理を、高い料金を払ってでも堪能したい-。ホテルに寄せる消費者の信頼を根底から裏切る行為の代償は重かった。

 阪急阪神ホテルズが運営する八つのホテルで、メニューと異なる食材を使っていた問題は、出崎弘社長の引責辞任に発展した。
 出崎社長は24日の記者会見で、従業員の認識不足による「誤表示」と言い張り、メニューの偽装をかたくなに否定していた。関西を基盤にした高級ホテルによる料理偽装問題として、誠意に欠けた社長の強弁が繰り返しニュースなどで報じられ、世論の反発が強まっていた。
 28日の会見で説明を翻し、メニュー偽装を事実上認めたものの、利用者の不信を招いた責任はあまりに大きい。高級ホテルの飲食部門への信頼にとどまらず、食の安全・安心にも疑念を呼び起こしている。辞任は当然のけじめだろう。
 ホテル業界、飲食業界全体で、利用客の不信を買う、同様な偽装はないのか。検証が求められる。
 今回の問題を他山の石として、観光が基盤産業である県内のサービス業でも足元を見つめ直し、信頼維持への取り組みを誓い、少しでも問題があれば、自浄能力を発揮する機会にしてもらいたい。
 当初、誤表示と発表されたのは23店舗の47商品だった。高級食材の芝エビと記しながら、ランクが下がる他のエビを用い、冷凍の魚を「鮮魚」と表記していた。こうした偽装が最長で7年半も見過ごされ、約8万人に提供されていた。
 この間、大阪の高級料亭「船場吉兆」が牛肉の産地を偽装し、客が残した料理の使い回しまで発覚し、廃業に追い込まれていた。それを横目に、阪神阪急ホテルズは対応を怠っていたわけだ。
 「誤表示」で済まそうとした阪神阪急ホテルズの対応と、経営トップの会見での不手際は、危機管理として最悪だ。消費者を軽視する行為への自覚と法令を守る意識が全く欠けていた。
 ことしは、東京ディズニーリゾートの一部ホテルやプリンスホテルなどでもこうした不祥事が発覚し、今回の問題を機に他のホテルでも食材偽装などが表面化している。再発防止の徹底を業界全体の問題と受け止めるべきだ。
 食品偽装事件の続発をきっかけに設立された消費者庁は、食の安全・安心への意識の高まりを踏まえ、チェック機能を強めてほしい。